第4話 セルVS【剣王竜】

「あ……ああ……」


 セルに突き飛ばされた事で、九死に一生を得たリオであったが、その代わりに落とされた彼の片腕を見てその様な声が出る。


「――くっ……」


 セルは切り離された断面から流れる血を少しでも抑える為に脇の動脈を抑えた。

 【剣王竜】の爪が迫る。


「それは……ありがたい」


 理性を持たない生物はまず手負いを追う。【剣王竜】は狩人としての本能から、重症を負ったセルを仕留めにかかった。


 僕が避け続ければ……


 横へ転がり、爪を回避。遅れてやってくる刃尾を身を反らす様にスレスレで見切る。


 【剣王竜】の標的は瀕死のセルに移り、その間に他の野次馬たちは我先にとその場から逃げ出していく。


 まだ……か……


 【剣王竜】の攻撃を避ける程の動きをすれば出血は抑えきれない。リオは恐怖のあまり、座り込んで動けずに居た。ソレをセルは横目で確認する。


 せめて……この場から遠ざけなければ――


 息さえも忘れる攻防の中、セルは極限と言える集中力を発揮し【剣王竜】の攻撃を見切りながら少しずつ移動を始め――


「――――リズムが」


 【剣王竜】の刃尾がセルを貫く。






 ドラゴンでも熟達した個体は厄介極まりない。しかし、逆に考えてみれば常識と可能性の範疇をこちらも予測しやすいとも言えるだろう。

 ならば経験も能力も未成熟な幼体は恐るるに足らないのか?

 答えはNoである。

 未熟な個体は予測不能な速度で成長していく。

 先程まで避けられなかったモノを避け、当てられなかったモノを当てて来る。

 しかも、それが【剣王竜】ともなれば……血に刻まれた戦闘力は、敵と対峙する度に爆発的に成長していくのだ。


「セルさぁぁぁん!!」


 リオの叫び声が響く。

 それを見切り切れなかったセルは、速度の増した刃尾に貫かれた。しかし、自らを貫通した刃尾を残った腕を絡める様に拘束する。


「……逃げてください!」


 口から血を流しながらもセルは一秒でもリオの逃げる時間を稼ぐ。


「駄目……置いて行けない!」

「君が居ても死ぬだけです! いいから……走れ!!」


 その一喝はリオへ気付けの様な効果を及ぼし、硬直した身体を逃亡へと動かさせた。


「ごめん……ごめんなさい――」


 涙を流しながらリオはセルに背を向けて走り去る。


「――――」


 セルはもうすぐ死ぬ。

 【剣王竜】は突き刺した刃尾からその命が僅かであると悟り、“音”に導かれて再び先へ進もうと――


「それは……アイツの……音……だ……」


 セルからの声。当然、言葉など理解できない【剣王竜】は刃尾を引き抜こうとするも――


「お前は……」


 抜けない。それどころか……刃尾を絡める腕に入る力が増していく。

 【剣王竜】は爪を使い、セルの頭を切り裂こうと振り下ろし――


「ソニアを……知っているのか?」


 その全身を貫かれる程の殺意に【剣王竜】は身体が硬直する。


 『業魔』――






「ハァ……ハァ……」


 リオはとにかく走っていた。セルが命を賭してくれた事を無駄にしないためにも、あの場から少しでも遠くへ。

 角を曲がると、上空を空挺部隊が通過し、耐刃装備の警備兵達が前から駆けてくる。


「! リオか!」

「ガザンさん!」


 警備兵を率いる隊長のガザンは、逃げてくるリオを保護する。


「お前達は先に行け。耐刃装備は、敵の攻撃を角度をつけて受けろ。切り裂かれるぞ」


 了解! と声を上げる部下たちは先へ進む。


「全く、トラブルのある場所にはお前は必ず居――」

「ガザンさん! 早く! 早く……セルさんを助けに行って!」

「! 生きてる者が居るのか!?」


 その時だった。何かが飛んで来ると、空挺の一つに激突し、現場に急行する警備部隊の目の前に落ちる。それは、


「【剣王竜】!!?」


 落下して横に倒れた【剣王竜】はジタバタと起き上がろうとしていた。

 ぶつかった空挺は何とか制御して不時着。地上部隊と残りの空挺は【剣王竜】に身構える。


「アンカー拘束! 耐刃装備は前に出ろ!」


 ガザンはリオを庇うように前に出ると即座に指揮を取る。


 【剣王竜】は起き上がった。しかし、その意識は上空と地上から向けられる警備兵の視線ではなく、自分が投げられた方へ向けられる。


「……なんだ?」


 【剣王竜】は何を見ている?


 本来ならばドラゴンから目を離す事は死に直結する。しかし、この瞬間だけは誰もがソレに注目せざるえなかった。


「……鎧?」


 その場の全ての生物が向ける視線の先には、尋常でない“殺意”を纏った『蒼鎧』が【剣王竜】を追うように疾駆して来ていた。

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