終章
終章
「私、本当は少し疑っていましたよ」
「負け惜しみだな、それは」
「違いますよ!」
なぜか事務所の中でキャッチボールをする祐未と祖父江。祐未の投球に力がこもっていた。
「いや、負け惜しみだろう」
「祖父江さん、私が初めてここに来た時、ミスを犯していたんですよ」
「ミスだって?」
今度は祖父江の投球にニュアンスが込められた。
「祖父江さん、私に依頼料の話をしなかった。それで、おかしいなって思ったんです。私が関わってくることは織り込み済みだったんじゃないかって」
「だからといって、君にすべてを悟られたわけじゃあるまい」
「そりゃあ、そうなんですけど」
「まあ、いいじゃないか。おばあちゃんからお金が騙し取られたわけじゃなかったんだから」
「そうですねえ」
「おばあちゃん言ってたぞ。『孫のためにお金を取ってあるんだって』」
祖父江からの球を受け取ると、もう飽きてしまったのか祐未は椅子に腰かけた。
「そうですか」
「そうか、君はカネに興味がないんだったな」
「今回の件で少し考え変わったかもしれません」
祖父江も椅子に腰を下ろして、作成途中だった報告書を引き寄せた。
「カネは大事だ。おばあちゃんもそういうことは分かっているだろうから、祐未ちゃんのこれからの祝い事のためにカネを取っておいてるんだろう」
祐未は祖父江の顔をじっと見つめた。
「なんだ、じっと人の顔を見て」
「あの、なんか勘違いしてません?」
「なにがだ」
「鹿子さんは私の祖母じゃないですよ。ただおばあちゃんって呼んでただけ」
祖父江は椅子から転げ落ちそうになった。
「はっ?」
――了
騙されません死ぬまでは 山野エル @shunt13
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