第5話 ダンジョン三回層:ダークウルフ

 結論から言えば、二階層のゴブリン狩りは順調に進んだ。

 ユニークスキル『ハック・アンド・スラッシュ』は強い。

 俺は【攻撃力アップ】【攻撃速度アップ】【防御力アップ】をそれぞれバランス良く重ねがけした。


 普通のバフ魔法とは異なり、残念ながら自分にしか対象にできない。

 その代わりに永続的効果があり、魔力消費もない。

 魔物を倒す度にポイントというものが貯まり、それを消費することでガンガン自己強化ができるのだ。

 その結果……。


「はああっ!」


「ガウッ!?」


 俺の振るう大剣により、ダークウルフは真っ二つになった。


「やったね! ハル君!」


「ああ。これで、三匹目だ。三階層も進んでいけそうだな」


 昨日のゴブリン狩りを順調に終えた俺達は、勢いそのままに三階層に挑戦していた。

 ここぐらいになると、初心者は脱出と言っていい。

 趣味や気分転換に入っている者はほぼいなくなる。

 曲がりなりにも冒険者として生計を立てている者ばかりだ。


 さしずめ、プロの領域に足を踏み込んだルーキーといったところか。

 冒険者全体から見ればまだまだ下位ではある。

 しかし、スキルを授かったばかりの15歳としては破格のペースと言っていいだろう。


「ハル君! 次はゴブリンを見つけたよ」


「よし。いくぞ!」


 俺とユリアは再び狩りを始める。


「おりゃりゃっ!」


「グギャァ!!」


「ギャオッ!!」


 次々と現れる魔物達を倒していく。

 三階層から新たに出現するのはダークウルフだが、一階層や二階層で出た魔物も出現する。

 ま、今の俺にとっては雑魚同然だがな。

 そして、しばらくして――


「むっ!? また新たな力か……」


 魔物を倒す度に得られるポイントにより、俺は能力を強化できる。

 一日目に強化できたのは【攻撃力アップ】だけだったが、二日目の前半には【攻撃速度アップ】も強化できるようになり、二日目の後半には【防御力アップ】も選択肢に加わった。

 どうやら、それぞれの能力を一定以上に強化することで次の能力が開放される仕組みのようだ。


「次はどんな能力なの?」


「説明するより試した方が早そうだ。ほら、あそこにスライムがいるだろ?」


「うん。こっちに少しずつ近寄ってきてる――って、あれ?」


 ユリアが異変に気づいた。

 スライムに攻撃を加えている謎の存在がいるのだ。


「あれは何? ひょっとして妖精……?」


「いや、違うぞ。似ているが違う。あれは人工妖精だ」


「人工妖精? 聞いたことないけど……」


「俺の新たな力【人工妖精召喚】だよ。俺の周りを浮遊しつつ自動で敵性の魔物を攻撃をしてくれるらしい」


「へぇ~!」


「ほら、言っている間にも……」


 俺は人工妖精とスライムに視線を向ける。

 人工妖精が放つ微細な魔力弾が、スライムに着々と打ち込まれていた。


「す、すごい……!」


「な、言ったとおりだろ?」


 俺は自慢げな顔を浮かべた。


「でも、威力は低いのかな? さっきから何発も撃って――あ、今ようやくスライムを倒したよ!」


「確かに威力は控えめらしい。だが、自動で攻撃してくれるのは便利だ。


 雑魚のスライムは人工妖精が自動で撃破してくれると考えれば、俺の意識はダークウルフへ向けることができる。

 狩りの安定性が増すだろう。

 ゴブリンはどうかな?

 一階層で初出のスライム、二階層で初出のゴブリン、三階層で初出のダークウルフ。

 魔物の特性は異なるし注意点も違うのだが、総合的な厄介さで考えればもちろん後から出てくるようになった魔物が上だ。

 ゴブリンはスライム以上、ダークウルフ未満といったところになる。


「――おっと。ちょうどいいところにゴブリンが現れたな」


「え? どこ? ハル君」


「あそこだ。少し先の曲がり角にいる」


「あ、本当だ! 私、全然気づかなかったよ」


「集中していたからな。それより、人工妖精の攻撃力を把握しておきたいから、ユリアは魔法を放たずに待機しておいてくれ」


「了解!」


「行くぞ!」


 俺は剣を振りかざして走り出す。

 そして、曲がり角の向こう側にいるゴブリンに対峙した。


「グギィ!」


 ゴブリンは驚いたような声を上げる。

 俺とゴブリンが睨み合う。

 そうしている間にも、人工妖精がゴブリンを攻撃してくれている。


「グギギ……!」


 ゴブリンは鬱陶しそうにしているが、俺から視線を外すことはない。

 人工妖精に気を取られてくれれば、その隙に俺が攻撃するという戦法をとれたのだが。

 そう上手くはいかないか。

 人工妖精の攻撃力は低いので、無視していても大勢に影響はないとの判断だろう。

 魔物のくせに賢いな。


 しかし、いつまでもこのまま膠着状態が続くわけじゃない。

 やがて、我慢できなくなったゴブリンが俺に襲いかかってくるはずだ。

 そのときこそ、俺のターンだ!


「ギイイッ!!」


 ゴブリンが動いた!

 俺は身構える!

 ゴブリンは俺に向かって突進してくる!


「くらえっ!」


「グギャッ!?」


 俺の剣により、ゴブリンは大ダメージを負った。

 そして、魔石を残して虚空へと霧散した。


「ふむ……。人工妖精が削ってくれていたおかげで一撃か」


 なかなかに強いじゃないか。

 戦法面への影響も大きい。

 戦闘開始後はひたすら待っていれば、人工妖精がチマチマと攻撃してくれるのだから。

 討伐効率も安全性も、一回り増したと言っていいだろう。


「ハル君! お疲れ様!」


「ああ。ユリアのおかげだよ。ありがとう」


「そんなことないよ。私は何もできなかったから……」


「いやいや、ユリアがいてくれたから、安心して戦えたんだ。本当に感謝しているよ」


「そ、そうなの?」


「ああ」


「それなら良かったよ!」


「よし。次はユリアに任せても大丈夫か?」


「うん! 任せて!」


 ユリアは笑顔を浮かべた。

 こうして、俺の『ハック・アンド・スラッシュ』とユリアの『火魔法』を駆使して、三階層をガンガン攻略していったのだった。

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