第2話 新人狩りのガルダ
スキルを授かった翌日。
俺とユリアは朝からギルドへ顔を出した。
昨日の一件以来、ギルド内は大騒ぎである。
俺は受付嬢から質問攻めにあうことが予想されたので、朝イチでやってきたのだ。
案の定、ギルドは人で溢れかえっている。
「おいおい、マジかよ……」
「あれって噂の『ハック・アンド・スラッシュ』野郎だよな?」
「ああ、間違いねぇ。通称『ハクスラ』だな」
「ユニークスキル持ちなんて、噂話でしか聞いたことがねえぞ……」
「いったい何者なんだ……」
皆が口々に呟く。
どうやら、俺の噂はかなり広まっているようだ。
「おい、あんたが『ハクスラ』って奴なのか?」
不意に背後から声をかけられたので振り返ると、そこには屈強な男が立っていた。
全身に装備している鎧は傷だらけで、歴戦の戦士であることを物語っている。
「そうだが……。アンタは誰だ?」
「俺の名はガルダ。隣街で最強の剣士と言われている男さ」
「ほう……。それは凄いな」
「ふふふ……。もっと驚くかと思ったのだが、冷静ではないか」
「いや、驚いてるよ。まさか隣街最強を名乗る人物が、このギルドに現れるとは思わなかったからな」
「ハッハ! 確かにその通りだ!」
ガルダは豪快に笑う。
その様子は、とても嘘をついているようには見えない。
「それで、その最強さんが何の用だ?」
「なに、簡単なことだ。俺と戦ってほしい」
「俺と?」
「ああ、そうだ。『ハック・アンド・スラッシュ』の実力を確かめたい。ユニークスキル持ちと戦える機会など滅多に無いからな」
「なるほどね」
確かにユニークスキル持ちは珍しい。
各国の要職に就いている者を除けば、かなり限られる。
そんな状況の中で、ユニークスキルを持った人間がこの街に出現したとなれば、気になるのも当然だろう。
「だが断る」
「な、何故だ!?」
「理由は二つある。まず第一に、俺は冒険者ではあっても戦闘狂じゃない。そして第二に、正直なところまだスキルの詳細を把握していないからだ」
「詳細だと?」
「ああ。なにせユニークスキルで情報がないんだ。俺も神父様も初めて見るスキルだからな」
「そういうことか……。ならば仕方が無いな」
「分かってくれたようで助かる」
俺がホッとしたのも束の間、彼は予想外の言葉を口にした。
「では、戦いはやめておこう。代わりに一方的な蹂躙をさせてもらう」
「……は?」
俺が呆気に取られている間に、ガルダは腰の剣を抜いた。
そして、そのまま斬りかかってくる。
「死ねぇ!!」
「ちょっ!? 待てよ!」
「問答無用!」
「クソッ!」
こうなってしまっては戦うしかない。
俺は咄嵯にバックステップをして距離を取る。
これでも、スキルを授かる前から冒険者として活動していたんだ。
ど初級のEランクだが、最低限の身のこなしぐらいは身についている。
「逃すか!」
しかし、ガルダは一瞬にして距離を詰めてくる。
隣街で最強の男というのは伊達じゃない。
彼は剣を振り下ろした。
「ぐはっ!」
俺は肩口に大きな衝撃を受ける。
間一髪で避けようとしたが、完全には避けられなかったのだ。
「ちぃ! 痛ぇな……この野郎……!」
「どうした? もう終わりか?」
「舐めんなよ……! こっちはユニークスキル持ちだぞ……!」
俺は激高すると、ガルダに向かって突進する。
ユニークスキルを使えば勝てるはずだ。
俺はそう確信していた。
「遅いわ!」
「ぐあっ!」
俺は袈裟懸けに斬られて、再び地面に転がった。
おかしい。
ユニークスキル持ちなのに……何故だ?
「ふん。ユニークスキル持ちっつっても、所詮はこの程度か」
「くそ……!」
「さて、そろそろ終わらせてやろう……」
そう言うと、ガルダは剣を構え直す。
このままじゃ殺される……!
俺が諦めかけたその時だった。
「ハル君から離れろっ!」
「なっ!? ユリア!?」
ユリアは俺の前に立つと、両手を広げて立ち塞がる。
その手は震えていた。
「なんだ嬢ちゃん。死にたいのか?」
「ううん、違うよ! ハル君は殺させない! 絶対に私が守ってみせるもん!」
「ハッハ! 健気な嬢ちゃんだな。だが、残念だったな。嬢ちゃんごと殺すぞ」
「構わないよ」
「ユリア!?」
「だって、ハル君はユニークスキル持ちだもん! まだ使いこなせていないだけで、きっと凄い力があるんだよ! こんなところで命を落とすなんて勿体ないよ……」
「…………」
ユリアの言葉を聞いて、俺は何も言えなくなった。
彼女は俺のことを心の底から信じてくれているのだ。
「ハッハ! 冗談だよ。本気で殺すわけないだろ?」
「……なに?」
「スキルを使いこなせてねぇっていう話が本当かどうか、ギリギリまで追い込んで試させてもらっただけさ。その様子じゃあ、本当のようだな」
「くっ……」
俺は悔しくて唇を強く噛む。
ガルダは俺の反応を見て笑っていた。
「なんだ……期待外れだな」
「ユニークスキルも大したことないな」
「いやいや、例の勇者様のユニークスキルは規格外だって話だ」
「このハルって奴が腑抜けなだけだろ?」
「俺達のパーティに誘わなくて正解だったぜ」
周囲の野次馬も似たような反応だ。
少し前まで期待の眼差しで俺を見ていた彼らは、今や冷めた目で俺を見ていた。
「まぁいいさ。お前が育った頃に、再戦してやるよ。それまでに精々強くなってくれ」
「二度と来るんじゃねえよ!」
「ハッハ! 威勢だけは良いようだな! それじゃあ、また会おうぜ!」
ガルダは笑いながら去っていった。
俺はその姿が見えなくなるまで睨みつけていたが、やがてユリアの方へと向き直る。
「大丈夫か?」
「私は平気だけど、ハル君が心配だよ……。怪我は大丈夫?」
「問題ない。痛みはあるが、大した傷じゃない」
「良かった……。本当にごめんね」
「なんで謝るんだ?」
「だって、私の我がままに付き合わせちゃって……。私が冒険者を志望したせいで、こんなことになっちゃったから」
「そんなこと気にすんな。元々、戦闘系のスキルが手に入れば冒険者としてやっていくつもりだったんだ」
「でも、もし死んでたらと思うと怖くなって……」
「馬鹿だな……。そんなこと気にすんなって言っただろ?」
俺は泣きそうな顔をしているユリアを抱き寄せる。
「今回は相手が悪かった。ユニークスキルが手に入ったとはいえ、さすがに隣街最強の剣士相手だと厳しい」
「そうだよね。でも、いつか必ずリベンジしようよ!」
「ああ、もちろんだ!」
こうして俺達は打倒ガルダを誓ったのであった。
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