第6話 ダンジョン四階層:ファングボア

 スキルを授かってから四日目の夕方になった。


「ふぅ……。三階層のダークウルフに続いて、四階層のファングボアも大したことなかったな」


「ううん、ハル君が凄すぎるからだよ! 私の火魔法はあまり効かなくなってきたし……」


 俺達はそんな会話をしながら、ダンジョンから出て冒険者ギルドへと向かう。

 確かに、四階層ともなればユリアの火魔法は通用しなくなってきている。

 ダンジョンの四階層は、中堅冒険者の領域と言えるだろう。

 俺達はまだ駆け出しではあるが、俺のユニークスキル『ハック・アンド・スラッシュ』を活用して突き進んできている。

 ユリアの『火魔法』スキルも本来は十分に強いスキルなのだが、さすがに攻略ペースが早すぎるようだ。


「だが、ユリアの火魔法だって徐々に威力が上がってきているんじゃないか?」


「ハル君のおこぼれをもらっているおかげだけどね」


 討伐された魔物は、魔石を残して霧散する。

 その際、魔石に上手く収まらなかった魔素が漏れ出して周囲の生物に影響を及ぼす。

 端的に言えば、魔物を討伐すればその時に近くにいた者は少し強くなるのだ。

 ただし、その効果は微量。

 本人のスキルへの慣れや剣術や魔法の訓練などによって、すぐに追い越されてしまう程度のものだ。


「魔石も吸収しておくか?」


「ううん。それは悪いよ」


「だが――」


「それより、武器とか防具を揃えた方がいいでしょ? 貯めておこうよ!」


 ユリアは笑顔を浮かべた。

 魔石は、日常生活に欠かせない魔道具の動力となる。

 そのため、安定した価格で取引されている。

 冒険者にとって大きな収入源の一つだ。


 そんな魔石を売らずに自分で消費するという選択肢も存在する。

 魔石を砕き、放出される魔素を自分で吸収するのだ。

 しかし、その効果は決して劇的なものではない。

 多くの冒険者は、普通に売却して生活費に充てつつ、余った分は装備やアイテムの充実に回す。

 微量な強化に期待して自分で砕くのは少数派だ。


「分かった。とりあえず、これまでに得た魔石を冒険者ギルドで換金しようぜ」


「だね。――ほら、言っている間に着いたよ」


「ああ」


 俺とユリアは冒険者ギルドの中に入った。

 そして、受付嬢の元へ向かう。


「ちょっといいか? 魔石の買取をお願いしたい」


「あら、ハルさん。迷宮攻略は順調みたいですね。今日もダークウルフですか?」


「いや、今日は四階層のファングボアだ」


「四階層!? ファングボア!? 嘘ですよね!?」


「本当だよ。はい、これ」


 俺は先ほどまで狩っていた魔石をカウンターの上に置いた。


「これは……! こんなにたくさん……! しかも、全体的に純度が高いような……」


「ま、これぐらいはな」


 今日の狩りで、俺は【人口精霊召喚】に続く新たな能力を得た。

 それは【魔石純度アップ】である。

 まだ数回しか強化していないので効果は微量だが、それでも見る者が見れば分かる程度の違いは生じている。


 この【魔石純度アップ】を今後どの程度強化していくかは一考の余地がある。

 純度の高い魔石ほど高く売れるので、単純に考えれば強化すればするほど収入が増える。

 しかしそれならば、【魔石純度アップ】ではなくて例えば【攻撃力アップ】や【攻撃速度アップ】を強化した方がいい。

 ファングボアやダークウルフをより効率良く狩ることができるだろうし、四階層より上に進む際にも役立つからだ。


「ハルさん、どうかされましたか?」


「ん? あぁ……。すまない。少し考え事をしていた」


「いえ……。では、査定を行いますので少々お待ちください」


「頼む」


 俺とユリアはソファーに座って待つことにした。

 すると、隣に座るユリアが話しかけてくる。


「ねぇ、ハル君。私、考えたんだけど……」


「どうしたんだ?」


「ハル君は、もっと強い人と組んだ方が良いと思うの」


「どうしてそう思うんだ?」


「だって、ハル君って凄いもの! もう、一流の冒険者と遜色ないよ! このままだと、どんどん差が開いちゃう!」


「そういうことか……」


 ユリアの意見はもっともだと思う。

 今のペースで進めば、いずれ俺とユリアの間には大きな壁ができることになる。

 ユニークスキルはそれほどの強さを持つ。


「でもな、ユリア。それは無理な話なんだ」


「えっ?」


「俺は幼馴染のユリアと一緒にダンジョンを攻略したいと思っている。だから、他の人と組んで進むなんてできない。もちろん、ユリアが嫌なら別だが……」


「そ、そうなの? 私は別に構わないけど……」


「よし。じゃあ、決まりだ。これからもよろしくな、ユリア」


「うん! こちらこそ、改めてよろしくね、ハル君」


 俺達は笑顔を交わした。

 ユリアは俺のことを心配してくれていたらしい。

 俺の気持ちを汲んでくれたようだ。

 やはり、持つべきものは幼馴染だな。

 俺がそんなことを考えていると、受付嬢の処理が終わって声をかけられた。


「ハルさん、ユリアさん。お待たせしました。合計で金貨二枚になります」


「おっ! 結構な金額になったじゃないか」


「はい。四階層クラスの魔石があれだけあれば、当然です」


「確かにそうだな。ま、今後も期待しておいてくれよ。明日からは五階層に行くつもりだし」


「ええ!? ご、五階層ですか!?」


「ああ。何か問題あるか?」


「い、いえ……、ありません。ただ、その、お二人だけで大丈夫かなと思いまして……。五階層から先は、階層ボスもいますし……」


「大丈夫だろ。ま、仮にヤバくなったら逃げるさ。それに、いざとなったらユリアの魔法もあるから」


「うんうん。任せてよ!」


「分かりました。お気をつけて。お二人の無事を祈っております」


 こうして、俺達は冒険者ギルドを後にして、明日のダンジョン攻略に向けて休むのだった。

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