第8話 ガルダへのリベンジマッチ
「お前は……ガルダ! どうしてここに!?」
「おいおい、そんなに驚くなって! 依頼関係でこの街を通りかかったときに面白い話を耳にしてな。それで、声を掛けさせてもらったんだよ!」
「面白い話?」
「お前の話さ。何でも、たった四日間であのダンジョンの四階層まで攻略を進めたらしいじゃねぇか! しかも、さっき聞き耳を立てた感じじゃ、今日は五階層のチャンピオン・スライムを倒したって?」
「ああ、そのことか。俺とユリアの力があれば簡単なことだ」
「ヒューッ! 言うねェ! 気に入ったぜ! やはりユニークスキル所持者は一味違うなァ!」
「それはどうも」
俺は苦笑いを浮かべる。
俺達の会話が聞こえていたのか、周囲の人達の視線が集まってきていた。
「またガルダの野郎が来ているのか」
「相手は……例の”期待外れ君”だな」
「初日とはいえ、あのガルダって剣士にボロ負けしていたもんな。可哀想に……」
「だが、奴は曲がりなりにもユニークスキルを持っている。それなら、もしかしたらもしかするかもしれないぞ」
「そうだよな。ユニークスキルを授かった者が弱いはずがない」
「今の話を聞いた感じでは、スキルを授与されてから今日までの五日間で五階層のボスを倒したことになる」
「凄まじい成長速度だ」
「いや、しかしそれは嘘かもしれねぇ。隣の嬢ちゃんは『火魔法』スキル持ちだろ? あの坊主は寄生してんじゃねぇの?」
周囲からヒソヒソ話が聞こえる。
俺は小さくため息をついた。
「お前が来たせいで、注目が集まってしまったな」
「ハッハ! 気にすんな!!」
「俺が気にするんだよ。ユニークスキルの詳細が分かるまでは、あまり目立つ行動は避けたいんだ」
「ほぅ? そういうことか」
ガルダはニヤリと笑う。
「それなら……これでどうだ?」
「きゃっ!」
ユリアが可愛らしい声を上げる。
突然、ガルダがユリアの腰を抱き寄せたのである。
「お、おい、何をしているんだ!」
「ハッハ! 女を取られて悔しいか?」
「別に俺とユリアはそういう関係じゃない」
「どうだかな? 俺にはそう見えなかったが?」
ガルダは下卑た笑みを浮かべる。
そして、そのまま言葉を続けた。
「お前の女じゃないってんなら……俺が貰ってもいいだろ?」
「ふざけるな。ユリアは物じゃないぞ」
「いいじゃねぇか。減るもんでもないし」
「駄目に決まっているだろうが」
「つれねぇこと言うなよ。こんな上玉、滅多にいないぜ? 俺にくれれば、たっぷりと楽しませてやるからさ」
「……」
「ハッハ! どうした? 黙っちまって。怖気づいたか?」
「分かった」
「へぇ、意外と物分かりが良いじゃねぇか。ま、ルーキーごときがこのガルダに楯突くわけにも――」
「ただし、条件がある」
「……何だと?」
ガルダの顔から余裕の表情が消えた。
俺は彼に語りかける。
「俺と勝負しろ」
「ああん?」
「ユリアを賭けて決闘だ」
「――っ!?」
ガルダは目を丸くしている。
それから、彼は大きな声で笑い始めた。
「ハッハ! 面白い冗談だ! この俺とお前が勝負だと? スキルの使い方に多少は慣れた程度で調子に乗りやがって。四日前の屈辱を忘れたのか?」
「忘れていないさ。だから、リベンジマッチだ」
「ハッハ! リベンジだって?」
「ああ、そうだ。今度はお前を完膚なきまでに叩き潰してやる」
「……」
ガルダは無言になる。
そして、しばらくして口を開いた。
「面白い! やってやろうじゃねぇか!」
「決まりだな」
こうして、俺とガルダの再戦が決まった。
そして、俺達はギルドの訓練場に来た。
訓練場は、冒険者同士のいざこざが起きたときに使用される施設である。
周囲には観戦用のスペースが設けられており、そこで野次馬達は戦いの様子を眺めていた。
「ハル君……本当に大丈夫なの? 相手は隣街最強を名乗る冒険者だよ? いくら何でも無謀だと思うけど……」
「心配するなって。前回とは違うから」
「でも、万が一のことがあれば――」
「そのときはそのときさ。あいつとの約束を破ってでも、お前のことは必ず守るから」
「……」
ユリアは俯く。
その頬はほんのりと赤らんでいた。
「二人とも準備はできたか?」
審判役の男が声を掛けてくる。
「問題ない」
「ハッハ! いつでもいいぜ!」
「では、始めよう」
男は右手を高く掲げる。
「はじめっ!」
直後、男の手が振り下ろされた。
俺は駆け出す。
対するガルダは微動だにしない。
舐め切った態度だ。
「その油断が命取りだぜ!」
俺は足に力を込め、素早く動く。
新たに強化した【移動速度アップ】の能力により、俺のスピードは以前よりも大幅に速くなっているのだ。
次の瞬間、俺は彼の眼前にいた。
「なにっ!?」
「遅いな」
俺はガルダの懐に入り込むと、すれ違いざまに横薙ぎを放つ。
すると、ガルダは派手に吹き飛んだ。
「ぐわぁ!!」
彼はゴロゴロと転がり、壁に激突して動きを止める。
「そこまで!」
審判役が再び手を掲げる。
同時に、周囲から歓声が上がった。
「おい見ろよ……あの坊主!」
「あのガルダを一瞬で倒しちまった!」
「凄い! 凄すぎる!」
「まさか、ここまで強いとは……!」
「あのガルダって男……弱いわけではないのだが……やはり、ユニークスキル持ちとの差は大きいようだ」
「これであの坊主はここら一帯で最強クラスの冒険者に躍り出たことになる」
「凄い! ハル君はやっぱりすごいよ! 私のために……ありがとう」
ユリアは瞳を潤ませている。
俺のことを心底想ってくれていることが伝わってきた。
「さて……そろそろ起き上がる頃合いだろう」
俺の言葉通り、ガルダはゆっくりと立ち上がる。
「ハッハ! 痛ってぇなァ! クソが!」
「もう止めておいた方がいいんじゃないか? これ以上やれば、怪我だけでは済まないかもしれないぞ」
「分かってるさ。このまま続けたところで、お前には勝てないことくらいな」
「ほう?」
「俺は隣町最強なんて呼ばれているが……所詮は井の中の蛙だったらしい。お前と戦ってみてよく分かったぜ」
「ふむ」
「だから俺は一から鍛え直す。そしていつか必ずお前を超える最強の冒険者になってみせるぜ」
「楽しみにしているよ」
俺は微笑んだ。
ガルダはニヤリと笑う。
「ハッハ! 言ってくれるじゃねぇか! それでこそ俺のライバルだぜ!」
「ライバル? 何の話だ?」
「しらばっくれるなって! お前は俺にとって最高の好敵手だ! これからも仲良くしようぜ?」
「……」
「どうした? 黙っちまって」
「……まあ、お前が反省しているなら、水に流してもいい。もうユリアにちょっかいを出すなよ」
「ハッハ! そうこなくっちゃな!」
ガルダは嬉しそうな笑みを浮かべる。
こうして、俺とガルダの決闘は幕を閉じたのであった。
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