第9話 ダンジョン六階層ボス:ゴブリンキング

 五階層のボスであるスライム・チャンピオンを討伐し、さらにはガルダを決闘で倒したことにより、俺の名は一気に知れ渡ることとなった。

 今や、俺に喧嘩を売ってくる冒険者は皆無である。

 ギルドの職員達からは、腫れ物を扱うような態度を取られていた。

 そして翌日――


「ハル君……本当に大丈夫なの?」


「もちろんさ。俺を信じてくれ」


 俺達は今、六階層の奥地にいる。

 目的はもちろん、階層ボスの討伐である。

 ユニークスキル『ハック・アンド・スラッシュ』を持つ俺の成長はとどまるところを知らない。

 もはや、一日ごとに一階層分を攻略するのが当たり前になっている。

 だが、ユリアは不安げな表情をしていた。


「うん。信じて入るけど……」


「心配するなって」


「でも……」


「それにしても、本当に邪悪な場所だよな。ここは」


 俺は周囲を見渡す。

 そこは薄暗い洞窟のような空間であった。

 壁面はゴツゴツしており、地面も土が剥き出しだ。

 天井は低く、背の低い魔物ならば、頭がつっかえてしまいそうである。


「うん。確かに……」


「早くこの六階層のボスを倒して、七階層に向かおう」


「……そうだね」


 俺達が会話をしていると、開けた場所に出た。

 そこには、一匹の巨大な怪物がいたのである。

 体長三メートル近くあるそれは、全身がドス黒い緑で覆われており、口元には鋭い牙を生やしていた。


「あれは……ゴブリンジェネラル!?」


「いや、違う。これは――」


「グオォォォッ!!!」


 怪物の雄叫びが響き渡る。

 次の瞬間、俺は咄嵯の判断でユリアを庇うように前に出ると、剣を構えた。

 ガキンッという音が響く。

 剣と斧がぶつかり合う音だ。


「ハル君!?」


「こいつは……ゴブリンキングだ!!」


「グオッ!!」


 キングは力任せに剣を振り払う。

 俺はなんとかそれを受け止めると、反撃に転じた。


「いいぜ! 来いッ!!」


 ガルダとの戦い以降、俺はさらに戦闘に対する意欲が増した。

 戦いの中でしか得られないもの。

 それを俺は手に入れたのだ。


「オラァ!!」


 俺は渾身の一撃を放つ。

 しかし、キングはそれを軽々と回避した。

 そして、すかさず攻撃に転じてくる。

 俺は冷静にそれを回避する。


 それから何度も打ち合った。

 その度に、激しい金属音を響かせる。

 ユリアの火魔法や人口精霊による援護も受けつつ、攻防はしばらく続いた。

 均衡が崩れたのは、俺の攻撃によりキングの腕に大きな傷ができたときだった。


「グッ……グアァァァァァァァァァッ!!!」


「いまだ!」


 キングは苦痛の声を上げると、大きく仰け反った。

 その隙を逃さずに、俺は素早く懐に飛び込むと、腹に剣を突き刺す。


「グオオォォッ!!」


「くらえぇっ!!」


 そのまま横に切り裂いた。

 すると、キングは絶叫を上げながら倒れ込む。


「やった……!」


「ああ」


「ハル君! 凄い! 凄いよ!」


「ありがとう」


「ハル君はやっぱり強いね! 私なんかよりずっと!」


「そんなことないさ」


「また謙遜して……本当はもっと自分の強さを誇ってもいいんだよ? ハル君は間違いなくこの街で一番強いんだから」


「そうかな?」


「そうだよ! だから自信を持って!」


 隣街最強の剣士であるガルダには快勝できた。

 しかも、あれから俺はさらに能力を伸ばしている。

 この街で俺が一番強い可能性も十分にあるな。


「さて、そろそろ戻るか?」


「うん!」


 俺達は帰路につく。

 冒険者ギルドに入り諸用を済ませる。

 受付嬢の驚いた表情も見慣れたものだ。

 そして、帰ろうとする俺の前に見知った顔の者が現れた。


「ハッハ! 今日も元気そうじゃねぇか!」


「お前もな」


 話し掛けてきたのはガルダだった。

 彼は俺の隣にいるユリアを見てニヤリと笑う。


「ハッハ! 相変わらずお熱いこった!」


「俺とユリアはそういう関係じゃないぞ」


「そ、そうだよ! 私達はまだ……」


「まだ? ハッハ! そうかい! まあ、お前さん達の好きにするといいさ! 俺は応援するぜ!」


「……応援してるのか?」


「おうよ!」


「……」


 さんざんユリアにちょっかいを出そうとしてきたくせに、ずいぶんと調子のいい男だ。

 俺が呆れた目で見ると、ガルダは肩をすくめる。


「おいおい……そんな目をするなよ。あれは演技さ。お前に全力を出させるには、嬢ちゃんに手を出すのが手っ取り早いと思っただけだぜ?」


「本当かよ。疑わしいな」


「マジだって! ――ま、そんなことはどうでもいい。それよりも、凄ぇ噂を聞いたぜ」


「どんな話だ?」


「実はな……例の勇者がこの街に向かっているらしい」


「へぇ……」


「興味なさげな反応だな」


「だって、俺には関係ないし。おとぎ話の勇者は好きだったけど……」


「おいおい、関係ないなんてことはないぜ。むしろ、お前が一番関係している」


「どういうことだ?」


「お前の噂が広まっているんだよ。ユニークスキル持ちのルーキーがいるってな」


「ああ、なるほど……」


 ユニークスキル持ちはかなり珍しい。

 そして、歴史的に見ればユニークスキルは強力なものばかりだ。

 今代の勇者パーティにも、ユニークスキル持ちばかりが集まっていると聞いたことがある。


「ひょっとして、俺が勇者様御一行に勧誘されるかもしれないと……?」


「そうだ」


「冗談きついぜ」


「ハッハ! 確かにそうだな! まぁ、物珍しいルーキーを一目見ておきたいだけの可能性もある。すぐに飽きて帰っちまうかもな」


「だと良いんだけどな」


 俺はため息をつく。

 正直言って、あまり目立ちたくない。

 ユニークスキル『ハクスラ』はまだまだ発展途上なのだ。


「ま、なんにせよ気を付けるんだな。勇者はともかく、他の冒険者パーティとか商人とかもお前を意識しているぜ」


「忠告ありがとよ。せいぜい気を付けるさ」


 俺が礼を言うと、ガルダは去っていった。

 何だかとんでもないことになりそうな予感を胸に、俺はユリアと共に冒険者ギルドを出たのだった。

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