第10話 ダンジョン七階層ボス:ファイアードラゴン

「ゴアァァッ!!」


「ガルルッ!!」


 七階層の奥地にて、俺はワイバーンを相手に戦っていた。

 亜竜とはいえ、上級の魔物である。

 その力は並大抵の冒険者を凌駕していた。

 実際、今朝方に七階層へ足を踏み入れた直後は、それなりに苦労した。

 しかし、今の俺ならば苦もなく倒せる相手だ。

 俺の進化は留まるところを知らない。


「はあっ!!」


 俺は剣を振り下ろすと、ワイバーンの首を一刀両断した。

 胴体が崩れ落ちると同時に、頭部も地面に転がる。


「改めて考えても、さすがは七階層だ。そこらの雑魚としてワイバーンが出てくるとは……」


「うん。それにしても、ハル君本当に強くなったね」


「まあな」


 俺は得意げに微笑むと、次の獲物を求めて歩き出す。

 そして、しばらくすると、大きな扉の前に辿り着いた。


「この先にはボス部屋があるはずだ」


「うん」


「準備はいいか?」


「もちろんだよ」


 俺はユリアの顔を見る。

 彼女は真剣な眼差しをしていた。

 おそらく、彼女なりに覚悟を決めているのだろう。


「ハル君ならどんな敵だって倒せる。最強の勇者様なんだから」


「おいおい、今代の勇者様は既に現れているぞ? 俺のスキルは『ハクスラ』だし……」


「関係ないよ。私にとって、ハル君は最高の勇者だもん」


「そうか……。ありがとう」


「え? ううん。私こそ変なこと言っちゃってごめんなさい」


「いや、構わないさ」


 俺達は笑い合う。

 大きく深呼吸をしてから、目の前の巨大な扉を開く。

 中に入ると、そこは広大な空間が広がっていた。

 そして、一体の魔物がいた。


「こいつは……!」


「ファイアードラゴンだよ!」


 ファイアードラゴンはれっきとした竜種だ。

 亜竜であるワイバーンとは格が違いすぎる。


「グオオォッ!!」


「行くぞ!」


「うん!」


 俺は剣を手に駆け出した。

 同時に、ユリアも魔法を発動させる。


「炎よ! 我が敵を撃て! 【ファイアーアロー】!」


「ガアアッ!」


 ユリアの放った火の矢が命中するが、大して効いている様子はない。

 だが、それでいい。

 奴を引きつけてくれれば十分だ。


「はあああぁっ!!」


 俺は勢いよく跳躍する。

 そのまま空中で回転しながら、全力で剣を振るった。


「グアァァッ!?」


 見事にヒットする。

 俺は着地すると同時に、再び走り出した。


「よし! いい感じだ! このまま畳みかけるぞ!」


「うん! 援護は任せて!」


 こうして俺達の戦いは熾烈を極めていく。

 そして、戦い始めておよそ三時間後――ついに決着がついた。


「はぁ……はぁ……」


「やった……勝った……!」


「ああ……」


 俺とユリアはその場に座り込む。

 身体は疲労困ぱいしているが、気分は最高だった。


「お疲れさま、ハル君」


「ああ。ユリアもおつかれさん」


「ふぅ……」


 ユリアは深く息を吐く。

 そして、どこか遠くを見つめるような目をした。


「なんだか不思議だな……」


「ん?」


「だって、私達は一週間前までは一階でスライム相手に苦戦していたんだよ?」


「そうだな」


「それが今では七階層のボスまで倒せちゃうなんて……人生なにが起こるか分からないね」


「まったくだ」


 俺は大きく息をつく。

 それから、立ち上がった。


「それじゃあ、帰るとするかな」


「うん」


 俺は出口へと歩き始める。

 そんな俺を、ユリアは呼び止めた。


「ねえ、ハル君」


「どうした?」


「これからも私とずっと一緒にいてくれるよね……? どこにも行かない?」


「当たり前じゃないか」


 俺は微笑んで言う。

 すると、ユリアは顔を輝かせた。


「本当!?」


「嘘なんかつかないさ」


「嬉しいな……。うん、絶対に離さないんだから……」


 ユリアは俺の腕にしがみつく。

 その頬は少しだけ赤かった。


「おいおい、急に甘えん坊になったな」


「もう、茶化さないでよ」


「悪い、つい嬉しくなってさ」


「むー……。でも、仕方ないから許すよ」


「ははは、ありがとよ」


 俺は笑う。

 そして、二人で抱きしめ合う。


「ユリア……好きだよ」


「私も好き」


 こうして、俺達は恋仲になった。

 幼馴染で親友のユリア。

 元々大切な存在だったが、今や最も大切な存在になったと言っていい。


 俺は彼女と仲良く手を繋ぎながら、ダンジョンから出る。

 そして冒険者ギルドへ報告に向かうと、入り口付近で何やら騒ぎが起きていた。


「あれは……!」


 俺は思わず目を見開く。

 なぜなら、そこにいたのは勇者パーティだったからだ。

 勇者、戦士、魔法使い、聖女。

 間違いなく、この国最強と言われる勇者パーティだ。


「勇者様御一行だ……」


「凄いな」


「どうしてこの街に……」


「冒険者ギルドに何か用事があるのだろうか……?」


 周囲の冒険者達がざわめく。

 そんな中、勇者がこちらに気付く。


「やあ、こんにちは」


 勇者は爽やかな笑みを浮かべると、近付いてきた。

 凄まじいほどのイケメンスマイルだ。


「君が噂のルーキーかい?」


「噂のルーキー? 何の話だ?」


 俺は思わず聞き返してしまう。

 おっと、しまったな。

 勇者と言えば、そこらの貴族なんかよりもよっぽど偉い人物だ。

 低級冒険者の俺なんかがタメ口をきいていい相手ではない。

 だが、勇者は特に気にした様子もなく話を続けた。


「実は最近、この街にとんでもない新人が現れたって聞いたんだ。なんでも、前例のないユニークスキルを得たとか。そして昨日には、たった一人でゴブリンキングを倒したとも聞いたよ。だから、どんな人なのかと思って来てみたんだけど……」


「ゴブリンキングは一人で倒したんじゃないぞ。こっちのユリアと二人で倒したんだ」


「へぇ? やっぱり君達のことだったのか」


 あ、しまった。

 訂正せずスルーしておけば、適当にはぐらかせたかもしれないのに。

 まぁ仕方ない。

 勇者相手に嘘をつく必要もないだろう。

 ここは正直に応対しつつ、無難にやり過ごそう。

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ユニークスキル『ハクスラ』持ちの俺、デビュー七日目でドラゴンを討伐して勇者パーティにスカウトされるも、八日目に能力がリセットされ追放される。また一から始めるぜ――いいや、ゼロから! 猪木洋平@【コミカライズ連載中】 @inoki-yohei

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