第3話 ダンジョン一回層:スライム
ガルダに絡まれてから数時間後――
俺とユリアは、ダンジョンの入口に来ていた。
ここは街の近くにあるダンジョンで、初心者向けとして有名な場所だ。
「よし、早速行くぞ」
「うん!」
俺達がダンジョンの中に入ると、そこには大勢の冒険者が居た。
どうやら先客がいるらしい。
「うへぇ。多いな……」
「仕方無いよ。この時間なら、みんなここを利用するんだし」
「確かにな。仕方ねぇ、端っこの方に行こう」
「うん」
俺とユリアは、なるべく人気のない場所を目指して歩いていく。
ダンジョンの一回層は大人気だ。
少し前までの俺とユリアのような、スキルをまだ得ていない未成年が小遣い稼ぎにやって来る。
また、成人でも非戦闘系のスキル持ちが気分転換の運動に来ることもあるし、腕自慢の冒険者も調整用によく利用している。
だから、必然的に混雑するのだ。
「お、このあたりは誰もいないな」
「だね。これなら落ち着いて戦えるよ」
「ああ。スライムを見つけて、スキルを試してみようぜ」
「分かった!」
俺達は慎重に進んでいく。
すると、前方に緑色のスライムを発見した。
「あれだ!」
「よーし、やってみる!」
ユリアは杖を構えると、呪文を唱え始めた。
「炎よ! 敵を撃て! 【ファイアーボール】!」
彼女が放った火球は真っ直ぐ飛んでいき、スライムに命中して爆発を起こす。
そして、跡形もなく消し去った。
「やった! 倒せたよ!」
「流石だな。『火魔法』のスキルは伊達じゃないってことか」
少し前までのユリアは、短剣でチマチマ攻撃していた。
スキルに頼らない火魔法も練習していたのだが、小さな火種を起こす程度の【リトル・ファイアーボール】の発動にすら苦労していたのだ。
それが今では、威力の高い【ファイアーボール】を発動できるようになっていた。
スキルを得たことによる補正効果はやはり大きい。
「うん! これでお金を稼げるよ!」
「そうだな。狩りの効率が格段に上がるはずだ」
スキルを得る前の俺やユリアでは、二人がかりでも一匹のスライムに数分掛かっていた。
危険度は小さいが、なかなかに打たれ強い魔物なのだ。
しかし、今は違う。
ユリア一人でも簡単に倒すことができる。
「次のスライムを探しに行くぞ」
「うん!」
俺達はさらに奥へと進む。
しばらくして、再びスライムを見つけた。
「今度は俺がやるよ」
「頑張って! 応援してるからね」
「任せろ」
俺はスライムに対峙する。
「スキル発動! 【攻撃力アップ】!!」
俺は空中に浮かぶ文字を指差す。
ユニークスキル『ハック・アンド・スラッシュ』の本領発揮だ。
そう思ったのだが――
「ん? 何も起きないな……」
「どうしたの?」
「いや、何でもない」
「もしかして、失敗したんじゃない?」
「まさか……。もう一度だ! スキル発動! 【攻撃力アップ】!」
俺は再チャレンジしたが、結果は同じだった。
やはり、ユニークスキルは発動しない。
「やっぱりダメみたいだ」
「そっか……。ユニークスキルは使い方が分からなくて不便だね」
「ああ。使いこなせさえすれば、おそらく強力なのだろうが……。――おっと!」
スライムが体当たりを仕掛けてきた。
俺はそれをサッと避ける。
「危ないところだった」
「気をつけてね。油断大敵だよ」
「分かってるさ」
スライムはさほどの強敵ではない。
だが、こうして話しながらだと万が一もなくはない。
「仕方ない。普通に倒してみるか」
ユリアの【ファイアーボール】ならば一撃なのだが、ここは敢えて俺一人でやってみることにした。
目的は魔石や素材じゃなくて、スキルの試運転なのだ。
この際、効率は無視である。
「よし、いくぞ」
俺は剣を構え、スライムに向かって突進する。
スライムは体当たりしてくるが、俺は軽々と避けてすれ違いざまに斬りつけた。
「せいっ!」
ザシュッという音と共に、スライムが真っ二つに裂け、元に戻る。
一見するとキリがないようにも見える。
だが、攻撃前よりも少しだけ体が小さくなっているのがポイントだ。
「次だ!」
俺は次々とスライムに攻撃を加える。
その度に少しずつ体が小さくなっていく。
やがて、そのスライムは息絶え虚空へと霧散した。
「ふぅ……。こんなもんかな?」
時間は掛かるが、スライムぐらいならば以前から狩っていた相手だ。
その後も、特に問題なく討伐していく。
そして、数匹程度を狩ったときのことだった。
「むっ!? これは……」
「どうしたの? ハル君」
「いや、【攻撃力アップ】の文字が明るくなっていてな……」
「へぇ? 私には見えないけど……。何か変わったのかな?」
スキルによっては、関連する文字が空中に表示されることがある。
俺の『ハック・アンド・スラッシュ』はそのタイプだ。
そして、それは本人しか見ることができない。
「試してみよう。【攻撃力アップ】!!」
俺は【攻撃力アップ】を発動させる。
すると、体に力がみなぎってくることを感じた。
「おお、成功したみたいだ! これならいけそう!」
「良かったね! 何が変わったのか分からないけど、凄く強くなった気がするよ」
「ああ。早速スライムで試してみよう」
その後、何度かスライムを相手に実験する。
結果、それまでよりも一回り早い時間でスライムを討伐できることを確認できた。
「うーん……」
「ハル君、何か不満なの?」
「いや、ユニークスキルって言っても、大したことないなと思って」
「そんなことないよ! 前よりも強くなってるじゃない!」
「そうだな。でも、もっと強い能力があってもいいんじゃないかって思うんだ」
「例えばどんな?」
「ほら、ユリアみたいに一撃でスライムを倒すような……」
「それはそうだけどねぇ……」
俺とユリアは少し微妙な空気になる。
そして、また数匹のスライムを狩ったときだった。
「おや……」
「どうしたの? ハル君」
「また【攻撃力アップ】が光ってる」
「へぇ? さっきの効力が切れたんじゃなくて?」
「いや、違うみたいだ。見ててくれ」
俺は再度【攻撃力アップ】を発動させた。
これまで以上の力が湧いて来る。
「本当だ……。ハル君がさっきよりも強くなっているように見えるよ。どういう仕組みなんだろうね」
「さぁな。とにかく、これでスライム狩りも捗りそうだ」
「そうだね!」
こうして、俺達は意気揚々とダンジョンの一回層で狩りを続けたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます