第4話 ダンジョン二回層:ゴブリン

 初日のスライム狩りはそれなりのものになった。

 ユニークスキル持ちとして期待していたほどではなかったが、スキルを得る前に比べると効率が上がっている。

 そして二日目の今日も、スライム狩りにやって来ている。


「せいっ!」


 俺の放った斬撃は、スライムをあっさり両断した。


「おおー! 凄い凄い!! とっても早く倒せるようになったね」


「スキルのおかげだな」


「でも、それを使いこなしているのは、やっぱりハル君の実力だと思うよ」


「そうか? ……ありがとう」


 俺は照れながら礼を言う。


「あはは! どういたしまして!」


 ユリアは嬉しそうに笑っている。


「それにしても、本当に【攻撃力アップ】は凄いな」


「うん。何度も重ねがけできるなんて、普通のバフ魔法ではできないことだよね。それに、昨日からずっと使ってても全然疲れないんでしょ?」


「ああ。少なくとも魔力を消費している感覚はないな」


 俺の【攻撃力アップ】はユニークスキルであり、通常のバフ魔法のように魔力を消費しない。

 だから、使い放題なようだ。


「まぁ、それでもユリアのように一撃では倒せないわけだが……」


「ううん! 私の【ファイアーボール】は何度も使っていたら疲れちゃうし、ずっと戦えるハル君の方が強いと思うよ」


「そういうもんか」


「うん。冒険者としての魔物狩りは連戦が前提だからね!」


「なるほど。確かに、それは言えてるかもな。一長一短といったところか」


 俺はそう判断する。

 強力な魔物との一騎打ちであれば、ユリアに軍配が上がる。

 しかし、スライム狩りであれば俺も捨てたもんじゃないだろう。


「おっと。また【攻撃力アップ】ができるようだ。いや、これは……」


「どうしたの? ハル君」


「【攻撃速度アップ】という文字が出ている」


「ええ!? そんなことまでできるの?」


「ああ。試してみるよ」


 俺は【攻撃力速度アップ】を発動させる。

 すると、今までよりも素早く動けるようになった気がした。


「これは凄い……。これならスライム相手に苦戦することはなさそうだ」


「良かったね!」


「ああ。じゃあ、早速スライム退治を再開するぞ!」


「了解!」


 俺とユリアは、再びスライム討伐に精を出す。

 俺は【攻撃速度アップ】を何度か重ねがけした。

 ユリアも、魔力の残量を気にしながら【ファイアーボール】でスライムを倒している。

 それから数時間後……。


「おっ! 二階層への階段が見つかったぞ」


「やったね! ハル君!!」


「ああ。しかし、どうしようか?」


「せっかくだし、行ってみようよ! 便利になるし」


「それもそうだな」


 俺とユリアは、第二層へと足を踏み入れる。

 ダンジョンとは不思議なもので、一度でも訪れたことのある階層へは入口からワープできるようになっている。

 スキルを得る前の俺達はど初級のEランク冒険者だったので一階層で安全に狩りをしていた。

 二階層に踏み入れた今、ど初級は卒業といったところだな。


「ここは森林エリアみたいだ」


「そうみたいだね」


 第一層の洞窟エリアとは異なり、そこは草木が生い茂る空間だった。


「うわっ! ゴブリンがいるよ!」


 ユリアは早速魔物を発見したようだ。

 ゴブリンは、人型の魔物である。

 知能は高くないが、剣や盾などを装備している個体もいるため、油断はできない。


「よし。俺がやってみる」


 俺は【攻撃力アップ】と【攻撃速度アップ】を活かし、戦闘を開始することにした。

 まずは、先制攻撃を仕掛ける。


「おりゃあ!」


 俺は勢いよく斬りかかった。

 その一撃は、ゴブリンの体を浅く切り裂く。


「グギャア!」


 攻撃を受けたゴブリンは、悲鳴を上げる。

 そして、反撃とばかりにこちらに小さな棍棒を振り下ろしてきた。


「ぐおっ!?」


 俺はそれをまともに受けてしまう。

 ダメージはそれほど大きくはないが、衝撃によって体勢を崩してしまった。

 そこに、すかさずゴブリンが追撃してくる。


「危ない!」


 ユリアが叫ぶ。

 俺は慌てて防御姿勢をとった。

 ガキンッ!!

 俺の構えた盾に、ゴブリンの振り下ろす棍棒が当たる。


「この野郎!」


 今度は俺が反撃をする。


「グギィ!」


 俺の斬撃を受けたゴブリンは、苦しそうな声を出した。

 そして、数歩後退する。


「はぁ……はぁ……」


 戦いは膠着状態になった。

 お互いの攻撃が当たり、相手もダメージを受けている。

 このまま続ければ、先に倒れるのは俺だろう。

 だが――


「【ファイアーボール】!」


 ユリアの声と共に、火の玉が飛んできた。


「ウゲッ!」


 俺を警戒していたゴブリンは、それを避けられなかった。

 ゴブリンが息絶え、魔石を残して虚空へと霧散した。


「ナイスアシスト! 助かったよ!」


「ううん! ハル君も頑張ってたよ!」


 俺達は初めてのゴブリン戦で勝利を収めた。

 しぶといが攻撃力は低めなスライムと異なり、ゴブリンは攻撃力がある。


「やはり俺達に二階層は早かったか」


 俺の『ハック・アンド・スラッシュ』で強化できているのは、攻撃力と攻撃速度だけだからな。

 ゴブリンのように、あちらからも攻撃してくる魔物が相手だとリスクが大きい。


「うん。そうだね……」


「二階層入口は開放できたことだし、今日のところは一階層に戻るか。――ん?」


 そのとき、俺の目にあるものが映った。


「どうしたの? ハル君」


「これは……」


 この流れも、もはや定期イベントになりつつある。

 ユニークスキル『ハック・アンド・スラッシュ』は分からないことだらけだからな。

 一つ一つ試していくしかない。


「新しい文字が浮かび上がった。【防御力アップ】だ」


「それって……」


「ああ。期待通りのものなら、二階層での狩りも安定するかもしれないな。もう一戦してみようぜ」


「分かったよ!」


 こうして、俺とユリアはゴブリンを探して歩き始めたのだった。

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