ユニークスキル『ハクスラ』持ちの俺、デビュー七日目でドラゴンを討伐して勇者パーティにスカウトされるも、八日目に能力がリセットされ追放される。また一から始めるぜ――いいや、ゼロから!

猪木洋平@【コミカライズ連載中】

第1話 スキル授与の日

「ついに……ついにこの日が来たか!」


 そう言って、俺はガッツポーズを取った。

 とうとう、今日は待ちに待った『スキル授与の日』である。

 この世界には『スキル』というものが存在する。

 その種類や効果は様々で、戦闘系から生産系まで多種多様だ。

 そして俺が今いるのは、生まれ故郷の街にある教会。

 街の中心部に位置するその場所は、早朝だというのに多くの人で賑わっていた。


「おーい! ハル君! こっちだよ、こっち!!」


 人混みを掻き分けてこちらに手を振る少女がいる。

 彼女こそ、俺の幼馴染であり親友でもあるユリアだ。

 肩にかかるくらいの長さをした金色の髪と蒼玉のような瞳を持つ美少女で、年齢は15歳。

 俺と同い年だが、背が低いため見た目では幼く見える。

 そんな彼女の手招きに応じて、俺は小走りで駆け寄った。


「悪いな。待たせちまったみたいだ」


「ううん、気にしないでいいよ。私もついさっき来たところだから……って言いたいところだけど、実は30分前から来てたんだよね」


「おいおい、そんなに早くからいたのか?」


「だって仕方ないじゃん! やっとスキルを貰えるんだよ!? 緊張して当然じゃない!!」


 興奮気味に語る彼女に、俺は苦笑するしかなかった。

 確かにその気持ちはよく分かる。

 俺もこの日が来るのを楽しみにしてたしな。


「それにしても、相変わらず凄い人だね……」


 周りを見渡したユリアが感嘆の声を上げる。

 教会の前には長蛇の列ができている。

 ざっと数えて100人は下らないだろう。

 また、周囲には野次馬のように集まった大勢の人々の姿もあった。


「まあ、無理もないんじゃないか? 俺達だって毎年のように来ていたし。この街から英雄が誕生するかもしれないんだぜ!」


 スキルには当たり外れというものがある。

 例えば『火魔法』や『氷魔法』は比較的当たりである。

 冒険者として活躍が期待できるし、上手く使いこなせるようになれば王国の魔導師団からお誘いがくることもあるらしい。

 『剣術』や『弓術』などの戦闘系スキルは冒険者志望の者にとっては有用だ。

 『鑑定眼』や『料理上手』ならば街で手に職をつけることができる。


「でも去年まではこんなんじゃなかったと思うけど……やっぱり勇者様の影響かなぁ?」


「それもあるだろうな」


 スキルは、あくまで熟練度を補佐する類のものが多い。

 例えば剣術スキルを得れば剣の扱いが上手くなるが、それだけでベテランの兵士に勝てるようになったりはしない。

 スキルを得たあとの鍛錬も大切なのだ。

 しかし中には例外もあり、非常に希少価値の高いユニークスキルも存在する。

 そして俺達が言う勇者とは、そういった強力なユニークスキルを所持している者のことだ。


「私も凄いスキルをもらえるかな~。ワクワクしてきたかも!」


 目を輝かせながら呟くユリアを見て、俺は思わず微笑む。

 彼女は昔から正義感が強く、困っている人を放っておけない性格だった。

 だからこそ、勇者に憧れを抱いているのだろう。


「そうだといいな。俺としては非生産系のスキルだと嬉しいんだけど。安全に稼げるからな」


「えーっ! せっかくなら強いスキルが欲しいよぉ!! バッサバッサと魔物をなぎ倒せるような……」


「いや、それはそれでどうなんだ……」


 などと会話をしているうちに、俺達の番になったようだ。

 神父の前に立つと、彼は穏やかな口調で言う。


「次はあなた達ですね。こちらの石板に触れてください。まずはそちらのお嬢さんから……」


 ユリア差し出された石版に触れると、淡い光が発せられた。


「ほう……。これは良いですねぇ」


「えっ!? そ、そうなんですか!?」


「はい。素晴らしいスキルですよ。『火魔法』ですね」


 その言葉を聞いた途端、ユリアの顔に笑顔の花が咲く。


「やったぁ! 私にも運が向いてきたみたいだね!」


「良かったじゃないか。これでお前も立派な魔法使いだな」


「うん、ありがとう! ハル君が付き添ってくれたおかげかも! 私も強くなれそうだよ!」


 俺の言葉を聞いて、ユリアは嬉しそうに抱きついてくる。

 俺はそれを受け止めると、彼女の頭を優しく撫でた。


「さて、次はあなたの番ですよ」


「はい。お願いします」


 俺は神父の前に立つと、指示に従って石板に触れた。

 すると、眩い光と共に激しい風が巻き起こる。


「うおっ!」


 あまりの強風に目を閉じること数秒。

 やがてゆっくりと瞼を開くと、空中に見たことのない文字が表示されていた。


「こ、これは……まさか……!」


 神父が驚愕に満ちた声を漏らす。

 周りの野次馬からもざわめきが起こった。


「なんて書いてあるんだろう?」


「さあな。俺には読めないよ」


「スキル名を確認できるのは、本人と神父様だけだからな」


「おいおい! いったい何事なんだよ!!」


 周囲の喧騒を聞き流しながら、俺は目の前の文字に視線を落とす。

 そこに記されていたのは―――。


「『ハック・アンド・スラッシュ』……?」


 まるで聞いたこともない単語であった。


「な、なんですか? このスキルは……」


「わ、分かりません。私も初めて見るスキルです……」


「神父様でも知らないスキルがあるのですか……」


 俺と神父は戸惑いの声を上げる。

 周囲のざわつきも増している。


「でも、それって凄いスキルじゃないのかな!?」


 そんな中、ユリアだけは興奮した様子で言った。


「ほら、だって『ハック・アンド・スラッシュ』なんだよね? カッコいいじゃん!」


「あー、まあ確かにな」


 スキルは、基本的には技能の名前がそのまま付けられている。

 しかし稀に例外もある。

 例えば『剣聖』『竜殺し』『メテオ・ストライク』などだ。

 これらはとても珍しい。


「ふむ……。スキルの詳細は分かりませんが、確かに凄いスキルであることには間違いありませんね」


「そ、そうなんですか?」


「はい。スキル授与の際に放たれる光の強さによって、そのスキルのおおよその価値を測ることができます。あなたの『ハック・アンド・スラッシュ』というスキルからは、これまで感じたことのないほど強い輝きを感じました」


「それじゃあ、俺は大当たりを引いたということでしょうか?」


「はい。間違いなく当たりの部類に入るでしょう。前例の少ないユニークスキルだと思われます。おそらくは戦闘系ですね」


「よっしゃ! やっぱり俺はついているぜ!!」


 ガッツポーズをする俺の横で、ユリアは羨ましそうな表情を浮かべている。


「私もユニークスキルをもらえればよかったのになぁ」


「そんなに残念がるなよ。ユリアの『火魔法』だって十分に強力じゃないか」


「でも、勇者様達はみんな凄いスキルを持っているんでしょ? 私も欲しいなぁ」


「まあまあ。今度一緒にダンジョンへ潜ってやるから、それで我慢してくれ」


 生産系スキルならば街で安全に稼ぐつもりだったが……。

 戦闘系のユニークスキルならば話は別だ。

 冒険者として名を上げることも可能かもしれない。

 ユリアの夢に付き合ってやろう。


「ホント!? 約束だからね!」


「ああ、もちろんだとも」


 俺が力強く答えると、彼女は満面の笑みを返した。

 そして、俺達は連れ立って教会の出口へと向かう。


「き、君! 街の衛兵隊に興味はないか?」


「いやいや、Cランクパーティの『青薔薇の剣』に入らんかね!?」


「あのー、うちのギルドで働かないかい?」


「ちょっと! 私が先に声を掛けたのよ!」


「なに言ってるのよ! 私のところに来なさいよ!」


 俺が教会から出るなり、群衆が一斉に勧誘を始める。

 どうやら、俺のスキルが余程珍しかったらしい。


「悪いな。俺には先約があるんだ。またの機会に頼むよ」


 俺は軽くあしらうと、ユリアの手を引いて歩き出す。

 後ろから呼び止める声が上がるが、気にせず進む。


「ハル君……良かったの?」


「ん? どういう意味だ?」


「私のために無理して断る必要は無いんだよ? だって、ハル君は勇者様みたいなすごい人なんだもん」


「おいおい、急に何を言いだすんだ」


「ハル君がユニークスキルを得たことは嬉しいけど……。でも、私のせいでハル君がチャンスを逃しちゃうのは辛いな……」


 そう言うと、ユリアは俯いて黙り込んでしまった。

 俺は小さくため息をつくと、彼女の頭を撫でてやる。


「大丈夫だ。俺はお前と一緒にいるだけで幸せなんだよ。それに、お前と一緒ならどんな困難にも立ち向かえる気がするしな」


「えっ!? は、ハルくん……!」


「おっと、少しクサかったかな」


 俺が苦笑いすると、ユリアは顔を真っ赤にして首をブンブンと横に振る。


「そ、そんなことないよ!! すごく……その……嬉しかったよ!」


「ははは! それじゃあ、いつも通り元気になったところで家に帰るか」


「うん! 帰ろっか!」


 俺とユリアは手を繋いで、仲良く帰路についたのだった。

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