雨を愛す 4
椅子から降りてつくえの下に屈みこむと落ちたペンを拾う。ぼくはキキのつむじを見下ろす。スカートの裾が床について汚れたしまったことを考える。立ち上がるとキキは吸い寄せられるように、教室の一番角の席に向かって歩いていく。夕陽の残光も途絶えた薄暗い教室のなか、机になだれこむように身をかがめて文字を書く。肩下で切り揃えられた細い髪が机に垂れるほどに顔を近づけて。書き終えるとそのうしろの席、さらに次はその後ろの席。そうして一列ぜんぶの机に書き終えると、横の列へ。教卓までインクがもつかな。ぼくはそんなことを考えながら、イスに座ったままキキのどうしようもない奇行を眺めている。きついシンナーのかおり。そのうちキキの単調なうごきに心を動かされて、気づけば「オソウシキみたいだね」とぼくは言った。キキは少しだけうごきをとめて顔をあげた。あどけない顔。キキにきっと意図はない。だからきっとこれはぼくの思いちがい。けれど、他人から見た真実というものがあるのなら。お友だちという意味において死んだひとたち。みんなに別れを告げるよ。かつてお友だちだったという意味において。
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