女が生きるとはどういう事か。命が肌身が熱く燃えるとはこの事か。

あまりの凄まじさに呆然とするばかりです。
書き手の皆様には恐らく通じるかと思われますが、ある程度文章を書き慣れてきますと、己の立ち位置と言いますか、界隈における己の力量は見えてくるものですよね。
相手の書く力量と自身の書く力量との間に隔たる、歴然とした実力差や、天賦の才というものが、残酷なまでに浮き上がって見えてくる。

今作は、とにもかくにも凄まじい。
あまりの力量差を見せつけられて、「あ、自分なんぞと比べて良いものじゃないわ」と打ちのめされる快感に溺れられます、というのがまず一点。
己の下手さ未熟さ加減は、一先ず棚に上げておきます。

舞台は架空の和風世界、山間の二つの村の間に横たわる過去と現在を結ぶのは、山女をモチーフとした怪異譚です。

主家筋の村では、女が恋情にその身を光らせ男を手繰り寄せる。
片や家来筋の村では男が蛍火で女を引き寄せる。
そしてこの両者は断絶されている。と、されてきた。

その両村を物理的に隔てた山で、一人の男と一人の女が出会い、逢瀬を重ね、物語と二人の運命は思いも寄らぬ未来へと転がってゆきます。

半ばまでですが拝読して最も思うのは、村という閉鎖的な環境において下位におかれた女が生き延びるためには、嫁ぐ事やその身を開くことが必要になるという状況がやはり生じうると言う事。その残酷さの中で、身も世もなく恋焦がれる男に巡り合えたというのは――僥倖なのかも知れません。

ただし、結ばれた糸が他者の意向によって無理矢理解かれたり、断ち切られたりしなければ、という但し書きつきになりますが。

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