5. 迷惑と愛着の狭間で
住んでいる場所を
ひがし茶屋街のある東山1丁目は、近年少子高齢化が顕著になっている。金沢市内でもある程度の広さがある古い
少子高齢化が進むという事は、それだけ生活する需要が低下する事を意味する。地域の人々の生活を支えてきた個人経営のスーパーや商店は売上が見込めない事や経営者の高齢化で次々と畳んでいき、食料品や日用品を扱う店は殆ど無くなってしまった。スーパーやドラッグストアは歩いて10~15分くらいにはあるが、車を持たない高齢者には買い出し一つだけでかなりの負担になっている。
ひがし茶屋街と聞くと“街並みが綺麗”だとか“落ち着いた雰囲気”というイメージを持たれるが、そこに住んでいる人からしてみればメリットに感じない。
それでも、私はこの町が好きだ。
春になれば浅野川沿いの桜並木は見ていて美しいと思うし、大晦日にはあちらこちらから聞こえてくる鐘の音が年末を感じさせてくれるし、何より住んでいる人の心が温かい。観光客が道に迷っているようなら声を掛けて案内するし、写真を求めたら快く応じてあげる。そういう優しさに、
色々とマイナスな部分もあるけれど、それを上回るくらいに愛着がある。何より、今の貴子には智美ちゃんと晴ちゃんが居るあのお店がある。それだけで、この町に暮らす理由には十分だ。
娘からは「一緒に暮らさない?」とお誘いはある。でも、もう少しだけ、お父さんと暮らしたこの町に居たいと思う。心が沈んだり
風に乗って聞こえてくる三味線の音に耳を傾けながら、ゆっくりとした足取りで家路につく貴子。ひがし茶屋街は目で見るだけではない、五感で楽しめるのだ。それがちょっとした誇りでもある。
トラットリア・ガット・ビアンカ~心をほんの少し上げる甘エビカツ~ 佐倉伸哉 @fourrami
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