トラットリア・ガット・ビアンカ~心をほんの少し上げる甘エビカツ~

佐倉伸哉

1. 実は、禁止されてます

 北陸は雪国、だから夏は涼しいのでは? 東京生まれの新田にった晴継はるつぐはそう思っていた。

 しかし……現実は違った。金沢はしっかり暑かった。それどころか、フェーン現象で日中の最高気温が35℃を超える事もあるくらいだ。雪国でも、夏は暑い。その現実をしっかりと突き付けられてしまった。

 8月に大学の夏休みが始まると、晴継はバイトのシフトを増やした。一人暮らしをしている身、少しでも稼げる時は稼いでおきたかった。それは9月になってからも変わらず、残暑の中も昼・夜に働いた。

 昼休み時間中、コンビニでアイスを買ってお店に帰る晴継。最近はこのアイスが仕事中のご褒美みたいになっている。店主の智美さんも、たまに「私の分も買ってきて」とお願いされる事がある。因みに、金沢はアイスの消費量日本一だ。

 アイスを溶かさないように、早く帰らないと。自然と歩くスピードが上がる晴継だが、とある光景が目に留まった。

 国道359号線からひがし茶屋街へ続く通り、観光客と思われる人達が手にしているのは、ソフトクリーム。他にも、抹茶味のアイスや金箔の乗ったソフトを手に一時の涼を味わう人も。

 しかし、そんな人達に対して、晴継はモヤモヤとした気持ちになる。

(……食べ歩きは禁止されているんだけどなぁ)

 実は知られていない事なのだが、ひがし茶屋街とそこに通じる道路ではされている。地元町会が定めた条例にはしっかりと明記されているが、アイス等の持ち歩き出来る飲食物を販売している店はそこに住んでない事をいい事に無視している。さもOKのように食べ歩きがあちこちで見られるが、実は禁止されている行為である事を観光客は知らない。

 しかし、わざわざ「それ禁止されてますよ」と注意するのも気が引けるし、楽しい気分の観光客とトラブルになるのも嫌だ。晴継は見て見ぬフリをして、お店に急いだ。

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