エピローグ
『千度の祈り』
愛するものたちがこの世を去り、早千年が過ぎた。
王を見守るヴーアももう誰一人いない。
それでも王は生き続ける。
愛する者たちの子孫が暮らしていけるように。愛する命が続くように。
王は時々考える。
故郷の森は元気だろうか。人々は安寧だろうか。
この地を去る最愛の弟に望んだこと。
――旅の先々で自分の生き血を世界に播いてほしい。
弟は泣きながら心臓に触れ、血を掬い取りそれを大切そうに抱えこの地を離れた。
彼の播いた血は大地を潤し、そこに循環する命を助ける。
もう、故郷にも森は出来ただろうか。
出来ているといい、豊かな動植物が集う場所であるに違いない。
森はまた命の森になる。
今度こそ愛される森になる。
でも、王はそれに交わることが出来ない。
心の片隅に木の葉の囁きが掠めても、もう森の息吹を肌で感じられない。
それほどにこの地は遠い、果てしなく遠い。
だから、王は祈る。自身の生き血が世界の南で生き続ける森にまで届くように。
困難に負けない強い森であると良い。
孤独なものを受け入れる優しい森であるといい。
寂しかった人生、愛された人生を思い出す。
どうかすべての人々が安寧に暮らせますように。
世界への千度の祈りを込めて王はそっと瞳を閉じた。
セラの森 奥森 蛍 @whiterabbits
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