チエコ先生とキクちゃんの水平思考クイズ【51】片思いの彼が異世界の救世主になった件について version3【なずみのホラー便 第140弾】

なずみ智子

片思いの彼が異世界の救世主になった件について version3

【問題文】


 ある日突然、雪江さんは片思いの彼である北見さんとともに、救世主を求める異世界のとある国のとある女王様の前へと召喚されてしまいました。

 北見さんが異世界に害を成している悪しき存在を倒す旅に出ることになりましたため、雪江さんもついていきたかったのですが「危ないからお城にいなさい」と諭され、渋々ながらお城に残ることになりました。

 約半年といった短期間で、悪しき存在をすんなりと倒した北見さんは名実ともに救世主となり、お城へと戻ってきました。

 その後の彼が手に入れることになったのは、異世界一とも言える絶大な権力でしたが……この異世界は現代日本とは異なり、武勲を立てて一定の身分以上になった男性は必ず4人の妻を娶らなければならないという憲法があったのです。

 北見さんはその憲法に難色を示しましたが、救世主とて例外は認められず、4人の妻を娶ることとなりました。

 雪江さんは北見さんに「私を妻にして! 形だけでいいから! お願い!」と何度もせがみましたが、聞き入れてもらえませんでした。

 北見さんは女王様を1番目の妻として娶り、他の3人につきましても北見さんと年齢が近く、落ち着いた大人の女性を選びました。

 さて、北見さんが雪江さんの思いを退けた”主たる理由”は何でしょうか?



【質問と解答】


キクちゃん : 今回の問題は、北見さんが雪江さんのことを単純に好きじゃなかったからとしか思えないのですが……北見さんは雪江さんのことが率直に言うと嫌いでしたか?


チエコ先生 : NO。彼は雪江さんのことを嫌ってはいない。むしろ大事に思っていた。


キクちゃん : 嫌ってはおらず、大事には思っていたけれども……形式上でも4人の妻のうちの1人として娶ることは無理であったと。となると、雪江さんにはもっとお似合いの男性がいるだろうから、彼女の幸せを願い、彼女の思いを退けたのですか?


チエコ先生 : YES……ではあるんだけど、それは主たる理由じゃないわ。


キクちゃん : 他に理由があるんですね。今回の「version3」ですが、前2問とは違って為政者の影がより濃く出ているような……前2問は王様でしたけど、なぜか今回は女王様のうえ、北見さんは女王様を1番目の妻として娶っていますし。もしかして、北見さんは自分が雪江さんを娶ってしまったなら、雪江さんが女王様にいびられると思ったのでしょうか?


チエコ先生 : NO。女王様はクールでドライな人よ。そもそも4人の妻を娶るのは憲法で決まっていることだから、他に3人の妻がいても割り切っているのだと思うわ。


キクちゃん : そうなると、他の3人の妻たちも1番目の妻のうえ1番身分の高い女王様がそう割り切っている以上、しゃしゃり出て我先に雪江さんをいびるなんて頭の悪い行為はしそうにないですね。それならばなぜなんだろう?


チエコ先生 : キクちゃん、今回の「version3」には他にも前2問との違いはないかしら?


キクちゃん : うーん…………あ! 「version1」の若菜さんと西田くんは高校の同級生、そして「version2」の鈴美さんと東吾さんは同い年の幼馴染で互いに大学生ですよね。今回の雪江さんと北見さんについては何も記述がありません。でも……北見さんが雪江さんを諭す際に『危ないからお城にいなさい』といった言い方をしていることから推測するに、北見さんと雪江さんは結構年が離れているような……少なくとも同級生ではなさそうですね。


チエコ先生 : そうよ、その調子よ。


キクちゃん : 他にも気になるのが「北見さんは女王様を一番目の妻として娶り、他の3人につきましても北見さんと年齢が近く、落ち着いた大人の女性を選びました」という箇所ですね。……”大人の女性”ということは、北見さんも大人の男性でしょうか?


チエコ先生 : YES。北見さんは38歳よ。ちなみに女王様は32歳、他の三人の妻39歳、35歳、30歳よ。


キクちゃん : 異世界の救世主と言われたら、20歳そこそこの青年の姿での脳内想像図を描いてしまうのですが、今回は登場人物の年齢層が全体的に高めなんですね。


チエコ先生 : ……そうね。先生も北見さんとは2歳違いだけどね。ちなみに作者とは1歳違いであるんだけど、もうすぐ作者は誕生日がやってくるから北見さんと同い年になるわ。


キクちゃん : …………失礼しました。そんなつもりはなかったんです…………。


チエコ先生 : 分かってるわよ。はい、気を取り直して。雪江さんの年齢について考えてみて。


キクちゃん : 北見さんより年下なのは確実なようですし、雪江さんは20代ですか?


チエコ先生 : NO。


キクちゃん : まさか、10代?


チエコ先生 : YES。雪江さんはキクちゃんと同じ15歳よ。


キクちゃん : そ、それは……ノーマルな性的思考の男性からしたら、15歳なんてまだ子どもですものね。形式上とはいえ、妻にするわけにはいきませんよね。でも、雪江さんと北見さんの関係って何だろう? 学校もしくは塾の先生と生徒だったんでしょうか?


チエコ先生 : NO。北見さんは雪江さんのお母さんの再婚相手だったの。つまり、雪江さんの現在の苗字も北見よ。


キクちゃん : 北見さんが雪江さんの思いを退けた主たる理由は、いくら血は繋がっていないとはいえ娘と結婚するわけにはいかないと思ったからですね?


チエコ先生 : YES。正解よ。ちなみに、この後の雪江さんについても補足しておくわね。


※※※


 雪江さんは北見さんの妻の枠が4人とも埋められてしまった後も諦めませんでした。

「どうして?! この異世界では私たちの間柄を知る人なんて誰もいないのよ! そもそも、私たちは血が繋がっていないのに! ママと結婚する時、私のこと大切にするって! 守るっていったじゃない!!」

 真っ赤な顔で泣きじゃくりながら詰め寄って雪江さんに、北見さんは「そ、それは、あくまで娘として……」と言葉を返すしかありませんでした。

 そうこうしているうちに、1番目の妻、すなわち女王様ご懐妊の知らせが雪江さんの耳に飛び込んできました。

 その知らせは、雪江さんにとって死刑を宣告されたに等しいものでした。

 ついにある夜、雪江さんは武器庫からくすねた短剣を手に女王様の寝室に忍び込もうとしました。

 しかし、あっけなく衛兵たちに見つかってしまい、雪江さんはその場で斬り殺されるという最期を迎えたのです。


※※※


(完)

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