一人称の臨場感

まだ一章を読み終わったところなので、序盤も序盤なのですが……。
ともかく感想文書かねば、と思ったのでキーボードをタイプしております。

某死に戻り作品が世に出てから、『死に戻り』という要素を含む作品は多く発表されたでしょう。
一度死を経験し、ある程度過去に戻った後、決定的な事件を回避、もしくは解決するために動く。
それはゲームのリトライの様で、培った知識と経験を生かすのに便利な舞台装置です。
ですが、人間にとって死とは根源的な恐怖。
ちょっとやそっとで乗り越えられるようなものではないはずなのです。
この作品でも死とやり直しを繰り返す描写はありますが、主人公であるコウキが初めてそれを経験する際の乗り越えがたいトラウマを抱えた描写が、読者である私にも重くのしかかってきました。
それは一人称による描写が成せる、最大限の魅力です。
主人公と読み手を限りなく近く共感させ、共に事件に巻き込まれ、へこたれ、乗り越えていく感覚を体験する。
この作品はそれが上手く働いているように感じました。
それは死に戻りのシーンだけではなく、冒頭から発揮されており、三十年という期間を短い文量で表現しているのですが、それを順序立てて、細かい出来事にも目を向けて、主人公の独白と共に綴られると、こちらも同じ時間を共有したような感覚になります。
それだけに、急に他者の視点に移るとびっくりしてしまいますが、それもまぁ、一人称視点の描写が上手くいっている証拠なのでしょう。

主人公の強さが突飛でないところも好みのポイントでした。
神様からチートもらってバーン! みたいな大雑把なモノでなく、コウキは自身が四十歳になるまでひたすらに鍛錬を積み、そこに裏打ちされた強さがあります。
降って湧いた能力などで無双するわけではなく、コウキがその強さに至る理由がしっかり理解できる点は好感触でした。
また、コウキが無双できるような世界観でないのも良かったです。
コウキが渡る異世界にも強者が存在しており、神様から得たギフトがあっても、一つ間違えれば簡単に命を落としてしまうような、シビアな世界観。
もらったギフトにも制約があり、それに抵触してしまわないかという緊張感。
様々な要素が『簡単に無双なんかさせねーぞ』と突きつけてくるようで、ひりつく感覚が良かったです。

重ねていいますが、私が読んだのはまだ一章部分のみです。
こちらの作品はミステリ要素も含んでいるということで、それらが本格的に回収されるのは四章からと明示されています。
私が読んでいる地点では、まだまだ準備段階なのでしょう。
これから本領発揮される本作のポテンシャルを浴びるのが、楽しみです。

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