30年待たされた異世界転移

明之 想

第1章 オルドウ編

第1話 序 1

 10才だったぼくは立っていることしかできなかった。

 だって、こんなことって…。


「あ~、やってしまった~~~」


「……」


「こんな幼い……に……強引に……したせいで……しまったかぁ……」


 すぐ近くで、白色の?

 ん?

 銀色かな?


 白っぽい銀色のおじさんがブツブツとひとりで何か話している。

 周りはまっ白、そこに銀色のおじさん。

 ただそれしか分からない。


 さっきまで公園にいたのに…。


「まあ、何にしても……」


 おじさんがぼくの目の前にやって来た。

 何だかキラキラしている。


「こちらの手違いで申し訳ないけど、早めに帰ってもらわないといけないね。え~~、キミは、そう、まだ幼すぎるから」


「……」


「キミ、今の状況分かっているかな?」


「えっ、えっ!?」


「まだこんなに幼いのだから混乱するのも仕方ない。大人でも驚くところだからね」


 ええっと?

 この人何を言ってるの?

 ここはどこ?


「ここは異空間。いくうかん、分かるかな? キミのいた世界とは根本的に違う場所ってこと」


「は、はい」


 ホントはよく分かってないけど。


「まあいいか。で、ワタシは高次元……いや、キミに理解できる言葉で言うと」


「……」


「そう、キミの世界で言うところの神様みたいなものかな」


「……はい?」


 わけが分からないけど、神さま?


「ワタシのことは神様だと思ってくれたらいい。それで、なぜこういう状況になったかというと……」


 それから神さまはいろいろと説明してくれた。

 ゆっくりとていねいに。


 そして、30分くらい経ったころ。


「で、いいかな」


「はい、説明ありがとうございました」


 ぼくも少しは落ち着いてきて、いろいろと分かってきた。

 ホントはまだまだ分からないこともあったけど、なんとか理解できたと思う。


 神さまのマチガイでぼくは今この変な場所にいるので、これから家に帰れるように神さまが準備してくれるみたいだ。


「まだ子供なのに礼儀正しいねキミは。それに随分と賢そうだ…。うん、ということで、キミには簡単なミッションをこなしてもらうよ」


「ミッション?」


 どういう意味?


「クエストと言った方が良かったかな。まあ、課題みたいなものだよ。君の世界とは違う世界でちょっとした事をしてもらうんだよ。それさえ済めばキミは元の世界に戻ることができるから」


 クエストなら分かるよ。

 ゲームで見たことがあるから。


 それをすれば、家に帰れるんだ!


「今回は街の中で困っている人を助けるだけの簡単なクエストだから問題ないはずだけど、街の外には出ないように気を付けなさい。街の外には今のキミでは全く太刀打ちできないような魔物がいるからね。そんな魔物に遭遇したらキミは生きては帰れないよ」


 まもの?

 ゲームやマンガに出てくるような……。

 ここに、いるんだ!


「はい、気をつけます」


「まあ、それさえ守れば大丈夫だろうが……いや、これも必要か」


 神さまの目が光り、その光がぼくの中に入ってきた。


「えっ?」


 何が起こったの?


「これで問題ない」


 よく分からないけど、神さまがそう言うならいいのかな?


「では、行ってきなさい」


「はい、がんばってきます!」


 うん、街の中でがんばろう。


「よい返事だ」


 そう言って神さまがぼくの顔の前で手をふると、目の前がまっ白になり……。


 ぼくは見たこともない場所に立っていた。


「ここが神さまの言っていた世界かな」


 大きな家のような建物と建物の間にある小さな道。その砂でできた道の上にぼくは立っているのだけど、ここって本当にちがう世界なのかな。普通の建物と道にしか見えないや。


 考えていてもしかたないので、小さな道を進んでみる。少し歩くと小さな道は終わり、さきには大きな道が広がっていた。


「この道はうちの近くの道とはちがうぞ」


 四角形の石がきれいに並ぶようにして道が作られている。


 すごい!

 こんな道は見たことがない。

 ちがう世界って感じが少しするかも。


 それに大きな道にいるたくさんの人たちも日本人じゃない。

 外人さんのような人ばかりだ。


 うん、うん、ちがう世界だ。

 なんだか、冒険している気分。

 ちょっとワクワクしてきたぞ。


 大きな道を歩いてみる。ひとりで知らないところを歩くのはこわい気もするけど、楽しい気持ちの方が大きい。


 あっちを見たり、こっちを見たり、めずらしいものがいっぱいで本当に楽しいな。


 あっ、あそこに果物と野菜が売っているぞ。

 道の端に広げるようにして果物と野菜が並んでいる。

 みかんっぽいのや、リンゴっぽいのもあるけど。

 見たこともないような果物がたくさんある。


 おいしそうだなぁ……。


「ん、ぼうず、お使いか?」


 少しの間ながめていると、果物を売っているおじさんが声をかけてくれた。


「えっ! ちがいます。でも、これおいしそうだなって…」


 みかんのようなレモンのような果物が2つに切られて並んでいるんだけど、すごくおいしそうなんだ。


「ヴィーツか、それは美味いぞ。オルドウの名産だからな」


「そうなんですか」


「ぼうず、金は持ってないのか」


「……はい」


「ん~~~、仕方ねえなぁ。これ持ってけ」


「え?」


「今日は特別な日だからな。それに、そいつは客寄せのための展示物だ。そろそろ表面が乾いてきたから別の果物を置こうと思ってたんでな。だもんで、そのヴィーツは廃棄物だ。ぼうずにやるよ」


「本当にいいんですか?」


「ああ、持ってけ。というか、食ってくれ」


「ありがとうございます」


「おお、食べろ食べろ」


「はい」


 もらった果物の皮を少しだけむいて……このまま食べていいのかな?

 ちょっと迷ったけど、思いきってかぶりついてみる。


「……おいしい」


 みかんともレモンともちがう。

 でも、あまくて、あまいだけじゃなくて……。

 うまく言えないけど、ほんとにおいしい。


「そうだろ」


「おいしいです。ありがとうございます」


「おう、良い食べっぷりだな。今度は買いに来てくれよ」


「はい!」


 おじさんにもらった果物は、ホントにホントにおいしかった。

 いつか、またここに来た時にはたくさん買いたいな、そう思った。



 果物を食べたあと、大きな道を歩きながら神さまにもらったクエストのことを考える。この道を歩いているだけで楽しくてしかたないけど、クエストもしなくっちゃね。


 と思ってたんだけど、また面白いものが見えてきた。

 道のまん中にある噴水の横で、ピエロみたいな人が火と水で何かの芸をしているみたいだ。


「えっ!?」


 手のひらから火の玉が飛び出した!

 あれは何?

 手品かな?


 おどろくぼくの目の前で、ピエロさんは飛び出した小さなボールのような火の玉を右に左に上に下に、自由に動かしている。


 すごい!

 何、これ?


「ええっ!?」


 今度は手のひらから水の玉が出てきた。

 火の玉と水の玉をすごい勢いで動かしている。


 こんなすごいの初めて見た。

 何なのだろう?


 夢中になって見ていたからなのかな。

 すぐ隣のおばさんが話しかけてきてくれた。


「ぼうや、魔法ショーは初めて見るのかい?」


「え! これって、魔法なんですか」


「そうだよ」


「まほう……魔法なんだ」


 すごい!

 本物の魔法なんだ!


「綺麗だろ」


「はい!」


 やっぱり、ここはちがう世界なんだ。

 すごいや。


「こんな魔法がいつも見れるんですか?」


「いつもは無理だよ。今日からオルドウ大祭が始まるから特別だね」


「おるどうたいさい?」


「祭りのことだよ。ぼうや、知らないのかい?」


「……はい」


「そうか、ぼうやはこの街の子じゃないんだね。まあ、良い時にオルドウに来たと思って楽しみな」


「分かりました」


 そうかぁ。

 祭りなんだ。

 なんだかうれしいなぁ。


「ほら、ラストだよ、よく見ておきな」


 おばさんの声をきいて、ピエロさんの方をしっかりと見つめる。

 自由に動いていた火の玉と水の玉が空中でぶつかり、はじけた。


 すると…。


「見事な虹だねぇ」


 きれいな虹が目の前にできていた。


「……すごい」


 こんな近くで、こんな美しい虹。

 見たことない。

 初めて見た。


 こんなのを魔法で作るなんて、すごい。

 すごい、すごい、すごすぎる!!


 ぼくも作りたい。


 この世界にいたら、ぼくも魔法を使えるようになるかな。

 すごいぞ!

 もう、ワクワクがとまらない。


「綺麗だったわね」


「はい!」





 ピエロさんの魔法を見たあと道を歩いていると、また人がたくさん集まっている場所を発見。祭りだから何かやっているのかな?


 そう思って近づいてみると、たくさんの人の中にぼくと同じくらいの年の子どもたちが集まっている。


 子ども?

 何かするの?


 立ち止まって見ていると。


「おい」


「おい、お前」


「えっ?」


 ぼくに、だれかが声をかけてきた。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る