第2話 序 2

「お前だ、お前」


 ぼくの前には、金色の髪の男の子?

 その後ろにいるのは、赤い髪の女の子。


「ぼく?」


「そう言ってるだろ」


「な、何?」


 ぼくの知らない世界で知らない人が話しかけてくるって。

 どうして?


「こっちに来い、おれたちのメンバーに入れてやるから」


「……」


 何のこと?

 もう、何が何だか分からない。

 日本ならすぐに断ったかもしれないけど、ここはぼくの知らない世界。

 困ったまま黙っていると、手を引いてつれて行かれてしまった。


「おれとリーナとお前の3人で、これから魔球合戦に出るからな」


「まきゅうがっせん?」


 それ何?

 ぼくも出るって?


「なんだ、お前それも知らないのか?」


「……」


 知るわけないよ。

 ここに来たばかりなのに。

 ていうか、この子、さっきからエラそうだよ。

 なんかちょっと腹が立ってきたぞ。


「どうする、リーナ?」


「今から他のメンバーを見つけるのは無理よ。まあ、わたしは参加しなくてもいいんだけど」


「仕方ない。ルールを説明してやるか」


「そうね」


 ぼくは出るって言ってないんだけど。


「あなた、名前は?」


「こうき……です」


「コーキね。わたしはリーナで、こっちはオズ。よろしくね」


「……よろしく」


「それで、オズのわがままに付き合ってもらうことになるのだけど、一緒に魔球合戦に参加してもらえないかしら?」


 このリーナって赤い子はちゃんと話してくれるし、ぼくの考えも聞いてくれる。

 オズっていう金の子とは大ちがいだ。

 でも。


「……それ知らないんだけど」


「それは大丈夫。簡単だし今から説明もするから、ね」


 そう言って笑顔を見せてくれる。

 この子と一緒なら、まあ人助けだと思って…あっそうか、これがクエストになるのかも。

 だったら、やるしかないのかな。


「分かった。やるよ」


「ありがと。ところで、コーキの年齢は12歳より下よね?」


「そうだけど」


「それなら問題ない。今回の魔球合戦は12歳以下限定だからな」


 そうなんだ。


「では、簡単にルールを説明するわね。魔球合戦というのは、敵と味方で3人ずつに分かれて行うもので、敵を全員倒すか敵の旗を奪ったら勝ちという試合なの」


「敵を倒すには、魔球を投げて敵に当てればいい。それで倒したことになる」


「オズの言う通りよ。ここまでは分かる?」


「まきゅうって何?」


「ほら、あそこにあるでしょ。あの魔力のこもった球のことよ。上手く投げるにはコツがいるのだけど、今からだと無理ね。コーキは普通に投げるだけでいいわ」


 少しはなれた所に野球やテニスのボールと同じくらいの大きさの球がたくさんある。

 あれがそうなんだ。


「コツはな、自分の魔力を魔球に通して投げることだ。お前も魔力はあるだろうから、試してみればいい」


 まりょくって、魔法の力のことだよね。

 できるのかな?


 でも、魔力って……。


「ぼくにも魔力あるのかな?」


「あるに決まってるだろ」


 そうなの?

 それ、本当ならすごくうれしいんだけど。

 ちょっと楽しみになってきたな。

 この子は気に入らないけど。


「上手く投げるのは難しいけど気にしなくていいわ。今回はそのまま投げるか、適当に魔力を流して投げればいいから」


 それならぼくにもできる。

 期待されていないのは、ちょっとさびしいけど。


「うん、分かったよ」


「それで、あそこが試合会場ね。お互いの陣に3つずつ石壁があって、その奥に旗があるでしょ。あの石壁に隠れることで相手の魔球から逃れて、隙を見て相手の旗を奪うって感じ」


「うーん……」


 分かるような分からないような。


「何試合か見れば分かるだろ」


「そうね。私たちが最初の試合にならなければね」


 ということで、魔球合戦が始まったのだけど、ぼくたちの試合は5試合目になったので、自分の試合まで4試合も見ることができた。


「ルールは理解できた?」


 リーナはぼくより1つ上の11才らしい。

 すごくしっかりしているし、もっと年上に見えるよ。


「うん」


「まあ、お前は旗の前で立っているだけでいいぞ。おれとリーナが敵を倒してやるから」


 オズはぼくと同じ年だ。

 なのに、いちばんエラそうなんだよな。


「……分かったよ」


 でも、さっき少し練習してみたら、リーナもオズもすごい動きだった。ぼくも運動には自信があったんだけど、勝てる気がしないや。


 くやしいな。


 そんな気持ちのまま、ぼくたちの試合が始まった。

 すると、リーナとオズの活躍であっという間に勝ってしまったんだ。

 ぼくは守っているだけで、魔球を投げたのも2回だけ。

 魔球はプラスチックのボールのような感じで少し投げにくかったけど、普通に投げることはできたかな。


 魔力は…うーん、使えたかどうか分からない。


「まずは1勝だ。あと3つ勝って絶対優勝するぞ」


「そうね、やるからには優勝しないとね」


 オズだけでなくリーナもやる気まんまんだ。


「コーキも頑張って、一緒に勝つわよ」


「うん」


 今の試合でもそうだったけど、リーナって実は負けずぎらいなんだな。

 オズも負けることなんて考えてもいないみたいだし。


 ぼくは……。

 自信はないけど、ぼくも負けたくない。

 次の試合では、なんとか役に立ちたいな。



 そのあとに行われた2試合目と3試合目。

 どっちもリーナとオズが相手の旗を取ったり、魔球を相手に当てて倒したりして勝ってしまった。3試合目はちょっと時間がかかったけれど、それでも簡単に勝ってしまったように見える。


 ぼくも1試合目よりは魔球をたくさん投げることができた。でも、あまり上手くできたとは思えない。ふたりのおかげで勝てたけど、何だかいっしょに勝った気がしないよ…。


 でも、少しだけ魔球を投げるコツが分かった気がする。

 次こそは。


「さあ、次に勝てば優勝だぞ」


「次の相手は今までより手強そうだから、気を引き締めてかかりましょ」


「うん? 大丈夫だろ」


「オズはさっきの試合観てなかったの。3人とも12歳で身体も大きいし、それに何より試合慣れしているわ。油断していると負けるわよ」


 うん、うん、強そうだった。

 ぼくもそう思う。

 今度こそぼくもがんばるぞ!


「まあ、リーナがそう言うなら注意してやるか」



 決勝戦。

 今までの試合と同じように、ぼくは旗の横で守っている。

 リーナとオズは左右から相手に向かって走り出す。

 2人とも投げられた魔球をさけたり、石の壁にかくれたり、やっぱりすごい動きだ。


 よし、リーナが左にいる相手ひとりに魔球を当てて倒したぞ。

 オズも右の相手を倒したんだけど…。


「くそっ」


 相手の魔球がオズに当たってしまい、退場になってしまった。

 くやしそうに試合場から出て行くオズ。


「あとは任せたぞ」


「うん」

「分かったわ」


 こちらはリーナと2人、相手は1人。

 きっと、勝てる。


「行くわよ」


 リーナが左にある石の壁を出て相手の旗に向かっていく。

 相手は右の壁の後ろ。

 リーナの方がはやい。

 勝ったぞ。


 と思ったのに……。


「えっ!?」


 手が旗に届く直前、リーナに魔球が当てられてしまった。

 まだはなれていたのに。

 リーナはよけることもできなかった。


 ちがう。

 リーナはよけたけど、魔球が少しだけ曲がってリーナに当たったんだ。

 変化したんだ。


 すごい。

 そんなことができるの?

 魔力を使えば?


「コーキ、任せたわよ」


「コーキ、なんとかしろ! 頑張れ!」


 退場していくリーナ。

 試合場の外から声をかけてくるオズ。


 オズがぼくを応援している。


 うん、やるよ。

 ぼくにできるかどうか分からないけど、がんばってみる。


 今、相手は右の壁の後ろにいる。

 まだ動かない。

 魔球を投げるか、旗を手にするか迷っているみたいだ。


 あの人の動きにぼくが勝てるとは思えない。

 だったら、ここから魔球を投げて当てるしかないぞ。


 でも、魔力を上手く使わないとあそこまでは届かない。

 それに壁の後ろにいるし。


「……」


 やるしかない。

 初めてだけど、やってやるぞ。


 ゆっくりと魔力を魔球に流してみる。

 魔力、魔力……きっとぼくにもある。

 流れろ魔力!


「……」


 これでいいのかな?

 でも、多分……こんな感じかな。


 そして、そして、投げる!!


 相手のかくれている石壁の右の方に魔球が飛んで行く。


「それじゃ、当たらないわ」


「残りの魔球は少ないぞ。むだにするな」


 リーナとオズの声が聞こえてくる。


 でも、そんなことより。

 集中。


 集中だ!

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