竜と少年の優しい物語

自分の中で竜といえばこの作者さんだと思っている。その理由は明快で、単に仰々しい存在感だけでなく、生き物としての可愛らしさの描写や感情表現の豊かさに彼らの生を感じるからだ。現実には存在しない生物に感情移入させるのは容易ではない。相当の描写力や対象への愛情が必要となる。それを難なくやってのける技量に感服せずにはいられない。
そしてターリクの控えめながらも心優しい性格に、ナージファの養女の主人公 アイシャの面影があるように感じられ、彼はアイシャの血縁なのだろうかと想像が膨らんだ。ナージファ本編も非常に素晴らしかったが、こちらも端正かつ静謐とした描写、存在感がある血の通った人物像などに彩られた文章を時間も忘れて読み耽った。短編とは思えない読み応えで、キャラクターへの愛に溢れており、作者の優しい人格が垣間見えるようだった。ラストは静かな感動に思わず涙してしまった。ナージファ本編を未読の人にもおすすめしたい。