誰もがきっと、この物語のレビューを書きたくなる。

物語は、海月さんだけがいない途方もない切なさと寂しさ……「さようなら」から始まります。

物語を開けば、まず作者様の透明で美しい文章表現に心惹かれました。
繊細な情景描写が散りばめられた風景が目の前に浮かぶようで本当にすばらしいです。
きらめく夏の思い出、輝く青春の日々を切り取ったような爽やかさがこちらにも伝わって、読み進めるのが楽しみでした。

心の強さがまだ未熟なままに、若さと脆さを抱える高校生の子供たち。
彼らを微笑ましく見守る一方で、娘世代の子達の想いを俯瞰から覗き見るような、親目線的なものもありました。

私の娘は16歳、ちょうど海月さんと同じ年の高校生です。
妹は当時高校生、私は大学生の時に母を家族総出の闘病の末に血液の癌で亡くしています。

もしも自分の娘が、未来が見えたことで残された時間にすらも絶望し、自らその命を絶ってしまったとしたら。
親はきっと海月さんの残された時間を大切にしたかったでしょう…
残されたわずかな時間だからこそ、家族として輝くものもあるからです。

ただ、高校生の心って親への忖度などはなくて、とても未熟なんですよね。
友達や大切な人たちと少しでも長く一緒に過ごしたい…私の娘もきっとそう。

海月さんに残されたわずかな時間を、他のどんな時間よりも輝いた時を過ごせたのなら、そして本望と言えるような死を迎えることができらのなら、親としても本望だったと言えるのかも知れません。

そして終話に綴られた海月さんの想いによって、謎めいていた事の全てが明らかになります。
海月さんが見たものは、死を美化するものでも、本当の絶望でもなかった。
きらきら輝く喜びと青春に満ちた「希望」だった。

海月さんの希望は、彼女の死に関わった響くんの未来の希望にも繋がっていきます。
そう——まさに希望と再生の物語なんですよね。

この余韻をいつまでも味わっていたい…透明で美しく、とても素敵な作品でした。

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