第4話 悪友が可愛い


 真菰がどうにも不機嫌だ。というのも今俺は真菰からマッサージを受けている。どこで習ったのかは知らないがかなり上手で疲れが取れていく感じもある。ちょっと痛いけど。

 ただ、俺としても悪友とは言え一応、性別上は女子である真菰に馬乗りにされてマッサージされるというのは羞恥心があったりもする。

 恐らく俺が逃げ出さない為だとは思うが、真菰のことだから俺を少しからかっているというのもあるだろう。


 勿論、最初はそんか感じだった。

 マッサージをしている時に俺のほっぺをツンツンしては笑ってたり、俺の手を握ってきては「ドキドキしただろう?」と耳元で囁いてきたり……要するにいつものイタズラ。

 真菰は自分が優位に立つことにより少しづついつもの調子を取り戻していた……俺も自棄やけじゃないならいいか。……疲れ取れるし。と思っていたのだが。


 途中から真菰は一言も喋らなくなってしまった。マッサージで入れられる力も弱々しくなっていきまるで労わるかのごとく優しいマッサージへと変化を遂げていた。

 しかし、俺としては今まで真菰がずっと元気に喋っていたから保てていた平常心。急な真菰の沈黙によりこのムードに耐えられなくなっていた。


 そこで俺が今度は積極的に話すことにした。

 俺はまず真菰を褒めることにした。恐らく今日の自分の勘違いで表面上は元気を取り繕っているが落ち込んでいるのは分かっていたからな。

 しかし、真菰の様子は更に変になっていった。いつもなら俺の母さんが褒めたりすると「天才だからな。あっはっは。……ありがとうございます」とか言って喜ぶのだが今日は沈黙しっぱなし。


 それどころかマッサージに入れられている力が更に弱くなってしまった。

 そして先程黙っていろと怒鳴られてしまった。俺の褒め方が下手だったのかもしれない。……とは言え本心で言ったことだから俺にはどうしようもないが……。

 つまり俺は結局なにがいいたいのかと言うと、


 とても気まずい! 静かな空間の中、真菰がただただ俺をマッサージする。凄く気まずい。

 こんなの俺と真菰じゃないだろ!!!

 そして真菰も俺と同じできまずかったのかマッサージをしていた手が止まる。そして俺の背中から静かにどいた。やっと馬乗りから解放された俺は立ち上がって真菰と向かい合う。


 すると真菰はうつむいていた顔を上げると早口にまくし立てる。


「どうだっっ!! 私は勘違いしたわけじゃなかったろ? 私はお前をからかってやっだけでワザと勘違いしたフリをしたんだよっっ。その証拠にお前に指摘された後も甘々なご褒美続けてやったしなっっ!!!」


 よほど勘違いしてたのが恥ずかしかったのか顔が真っ赤である。ここで反論することは容易い。俺は勘違いさせてしまったことを謝りたいのだからそうしたいのも山々だ。

 だが、ここまでやって勘違いを認めなかった真菰の意思を踏みにじるのも違う気がしたので大人しく首を縦に振ることにする。


「ふふん、やっと分かったか。この私が勘違いなんてするはずないからな!」


 俺が折れたのを見てか自慢げに胸を張る真菰。そして俺は謝れなかった分感謝を伝えることにした。


「あぁでも、からかう為だったとしてもありがとな。お前は口では言わないだろうがあれから俺が落ち込んでると思ってここまでやってくれたんだよな? ここまでお前がやるのはからかう為だけではないのは分かってるしな。……俺はお前のそういうところが本当に好きだよ」


 真菰は頑固だからなきっと認めはしないだろうが勘違いだとしてもここまでやってくれたのはあの事をかなり気遣ってくれていたんだろう。だからこそ俺は最大限の感謝を伝えた。謝罪が出来なかった分も含めて。


「っっっっ!!!? はぁっ!? はぁぁぁぁぁぁぁ!? 」


 のはずなのだがどうにも真菰の様子がおかしい。俺が感謝を伝えると落ち着かなく立ち上がるとその場をウロウロと歩き始め、ついには……。


「本っっっ当に2度と口を開くなバカっっっ!!!」


 そんな怒鳴り声を上げると持ってきていたカバンを持って部屋の扉の方へとズカズカと歩いていってしまう。

 俺はここで引き止めることは得策ではないと悟り、


「また、来いよ〜」


 といつも通りの別れの挨拶を投げかけるが、


「しばらく来ないっっっ!!!」


 真菰はそう言うと扉を開けて出て行ってしまった。階段をズンズンと降りていく音が聞こえる。あ〜あ、本気で怒ってんなありゃ。

 俺は真菰が去っていった部屋の扉を眺めてため息をつく。失敗した。どこを間違えてしまったのだろうか。

 俺がそんなことを考えていると再び階段を登る音が聞こえてきた。真菰はもう帰ったはずなのに誰だろうと俺が首をひねっていると、部屋に入って来たのは先程、しばらく来ない宣言をして飛び出していった真菰であった。


「おう、さっきぶりだな」


 流石に面を食らった俺だがビックリしながらも真菰に声をかける。しかし真菰はそんな俺に答えることなく黙って俺に向かって歩いてくると俺の胸になにかを突きつけた。


「ん? なんだこれ……クッキーか?」


 真菰が俺の胸に突きつけたものは可愛くラッピングされた中に入ったメッセージカード付きのクッキーであった。

 恥ずかしいのか怒っているのかは分からないがプルプルと震えて目を合わせようとしていなかった真菰はキッとこちらを睨むように視線を向けると、


「い、一応誕生日プレゼント。そこら辺で買ってきた奴だ!! 変な期待すんじゃねぇよ?……その、いい忘れてたけど誕生日おめ……でとう」


 真菰はそういい終えると俺が口を開く間もなく逃げ帰るように扉の方へと早歩きで歩いていく。そして、


「これが言いたかっただけだからなっっ!!

 もう、しばらく来ないからっっ。今のはノーカンだからな」


 そう早口でまくし立てると去っていってしまう。

 俺はあまりのスピード感に呆然としてしまい声をかけることすら出来ずにその場に固まってしまうがクッキーの袋に入っているメッセージカードを見て笑みをこぼす。


『いつも私に付き合ってくれてありがとうな。お前にはいつも助けられている。……だからと言って完全に認めてるわけじゃねぇからな!? でも、認めていることは確かだ。

 いつも本当にありがとう。

 HAPPY BATH DAY 佐原 充

 お前の相棒 相田 真菰より』


 そこにはこんなことが書かれていた。



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 次回「悪友は不器用です」


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 では!



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