第3話 悪友は逃げ出したい

 真菰目線


 本音を言うなら逃げ出したかった。でも、それは私のプライドが許さない。勘違いしてたなんて認めたくない。そもそも私は充にも言ったが他の男に頼まれたところで膝枕をするような安い女ではない。


 充とは長い付き合いで充がいい奴だって分かっているからこそ、いつも迷惑をかけている分も含めて誕生日くらいと充から「甘々で頼む」と言われたこともあって行ったのだ。

 男の頭を膝の上に乗せるなんてこと初めてだし、充の前ではいつものように元気ぶっていたが内心は緊張やら恥ずかしいやらで溶けてしまいそうだった。


 私と充は男女というより悪友だ。私が遊びに行くぞと言えばいつも充は黙ってついて来た。たまにイタズラを仕掛けては充を驚かそうとするが充はそんな私を見てニコニコと笑っていた。

 充いわく私の笑顔が好きらしい。よく分かんねぇ奴だなぁと思いながらも、私は私に普通に接してくれる充のことが好きだ。勿論、充にイタズラを仕掛けるのはもっと好きだ。


 あくまで友人として!


 大抵の人間は私の容姿を見て近寄ってくる。そして私の口調や性格を知ると勝手に失望して去っていく。人は言う。


「せっかく可愛い顔なんだからもっと女の子らしくしてなさい」


 私のことをなんにも知らない人間が私のことをさも知っているかのように語る。……吐き気がした。

 でも、充は違う。私がそのことを相談すると、


「真菰は人が勝手に定めた生き方をする必要はない。だって真菰は真菰らしく生きていきたいんだろ? だったら俺はそれを尊重する。

 その上で言うよ、俺はその真菰らしさが好きなんだ」


 とか言ってた。充のくせにカッコつけてんじゃねえよと返し充の髪をわしゃわしゃやってしまったが嬉しかったのは事実だ。

 私は私の口調を変えるつもりもない。男口調だと言われても違うと答えるだろう。

 これは私の、真菰の口調なのだ。充が好きだと言ってくれた口調なのだ。


 だからこそ私は変わらない。私は真菰であって女の子ではない。私は充を男だと思ったことはない。充もまた充なのだ。


 そのはずだ、なのに……今日、私は明らかに充のことを意識してしまった。そもそも私が充をリードするのが通常のはず。途中までは良かったんだ。少し恥ずかしいながらも充をリードして可愛がっていた。

 アーンはするつもりはなかったが勢いでやってしまった。

 結果的に充の赤い顔が見れたのは大きな収穫だろう。なにせ充は普段基本的に表情を変えないからな。からかうタネが増えた。


 まぁ、私も常時笑っていて元気な顔しか見せないので充からはツッコミをうけそうだが。


 でも、私は充から私の勘違いだったという話を聞いて慌てた。そもそも私が今日ここまで大胆なことを出来たのは充がして欲しいと言っていた、という免罪符があったからであり充との男同士のようなスキンシップはあっても男女のようなスキンシップを行うことはかなり恥ずかしい。


 私は自分の勘違いだと気づいた途端に私の顔が赤くなっていくのを自分でも感じた。でも、それは恥ずかしさ故であって充を意識したのではない。……はずだ。


 そのことを証明するために私は充にマッサージをすることにした。思えば今日の充は少し変だった。いつもなら私のペースにしてくれるのに今日はしてくれない。

 だから充は今日私に一泡吹かせようとしているのかもしれないと思った。


 充は以前に「でも、たまには俺もイタズラしたいなぁ」と言っていたことがある。今日の私の様子を見てこれならイケると思ったのかもしれない。


 だからこそのマッサージ。女に耐性のない充は私が少し女の子っぽいことをすると顔を赤くする。たまにイタズラで使ったりもする手だ。

 私に充が一泡吹かせようなんて100年早いんだよ。私はそんなことを思いながら自信満々で望んだ。少しの恥ずかしさはあったが充に負けるのとでは比にならない。


 だが現状私は逃げ出したくなっていた。というのも……。


「真菰ってマッサージ上手いのな」

「意外と手が柔らかくて小さくて可愛いな」

「そ、そのさっき言い忘れたけどさ……真菰が勘違いしてやってくれたのは分かってんだけど、膝枕……よ、良かったぞ?」


 充による褒め殺しにあっていたからである。

 そもそも充に普段褒められることなどない。

 大抵の場合は話すことと言えばくだらない雑談であったり、私のイタズラに対する軽い文句だったり(本気で嫌ではないみたいだが)。


 そんなわけで私は充に褒められることに耐性がない。なのに先程からの褒め殺し。

 恐らくこれは狙ってやっているのだろう。私に一泡吹かせる為の戦略。分かってはいる。

 分かってはいるが……それでも嬉しいものは嬉しいのだっっ!!!


 さっきから私は顔のニヤつきが治らない。それどころか心臓さえ胸打つ始末。


 唯一の救いは充の背中の上に私が乗っている為、充からは私の顔が見えないというこだろう。恐らく自分でも見たことのないほどのダラシない顔をしているだろうから充に見られるのだけは嫌だ。


 とは言えだ。


「勘違いだったかもしれないけど、今日の事は素直に感謝してる。ありがとな」

「もう、喋るなバカっっっっ!!!!!」


 流石に限界である。逃げ出したい。顔も熱いし熱もあるかもな。




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 次回「悪友が可愛い」


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