第5話 悪友は不器用です


 真菰視点


「……ただいま」

「ゲッ、姉ちゃんお帰り」


 私が充の家から飛び出した10秒後、私が私の家に入るとそこには弟である雷太がなにやら失礼なことを言いながら立っていた。

 いつもなら「ゲッってなんだ、このアホ雷太がぁぁ」とか言いながら掴みかかる所だが今の私にそんな元気はない。

 私は雷太を無視して自分の部屋へとゆっくり歩いていく。すると雷太も私の今日の行動の不自然さに気づいたのか私についてくる。


「あれ? いつもみたいに髪わしゃわしゃしたり掴みかかって来たりしないの?」

「うるさいな。今、そんな気分じゃないんだよ」


 私は少しイライラしながらそんな風に答えるがそんな私を見て雷太はむしろニヤニヤとしていた。我が弟ながら本当に憎ったらしい顔だ。


「ふーん、姉貴が充兄さんのところに行って不機嫌なんて珍しいね。それにいつもなら元気なのに……なんかあったろ?」

「うるせぇなっっ」


 私をニヤニヤ顔で腕をツンツンしてくる雷太に私は怒鳴り声を上げるが雷太にそれを気にした様子はない。


「いいけどさぁ、充兄さんと仲悪くはなんなよ。姉ちゃん貰ってくれるとしたら充兄さんくらいだぞ?」

「今日はもうアイツの名前出すなっ!!」


 頭の後ろで肩を組みながら変なことを言う雷太に更に大きな声を上げる。

 充の名前を聞くたびに勘違いに胸の高鳴りや顔を赤くしてしまったこと思い出してしまう。……くっそ、恥だ。


「えっ? マジで喧嘩したの? 姉ちゃんとあの充兄さんが?」

「違えーよ! 私が一方的にアイツのこと嫌いになっただけだわ」


 少し心配そうに尋ねてくる雷太に私はそう伝える。実際事実だしな。充の野郎、充のくせして私を出玉に取りやがって……私を赤面させるとは許せない。

 しばらくはアイツん家行ってやんね。 ……元々私が勝手に押しかけてただけだけど。……3日くらいしたら許してやるか。


「そうなんだ、まぁほどほどにしとけよ馬鹿姉ちゃん充兄さんに呆れらないようにな」

「うるさいなっっ、このアホ雷太がっっ」

「痛っ、なにすんだよ」


 無神経なことばっかり言ってくる雷太に対し限界が来た私は雷太の足に軽く蹴りを放つ。

 私は痛さでのたうち回る雷太を尻目に自分の部屋の扉を開けるとその中へと入っていく。


「ガチで姉ちゃん、充兄さんくらいしか貰ってくれる人いねぇからな!? ガチで大事にしろよ!!!!」


 私が部屋の扉を閉める寸前雷太がそんなことを叫んでいた。雷太なりに本当に心配してくれてたのかもな。……ちょっと蹴りはやりすぎたか? いや、貰ってくれるとかは意味不明だけど。



 *



「はぁ〜本当に乱暴な姉ちゃんだ」


 しばらくリビングでテレビを見ていた俺こと相田 雷太は誰に聞かせるのでもそう呟くと立ち上がり自分の部屋へと向かう。

 充兄さんなら姉ちゃんと付き合い長いし、姉ちゃんがああいう性格だってのは知ってるから大丈夫だとは思うが心配だ。


 そもそも充兄さんほど素敵な人が姉ちゃんを貰ってくれるだろうかという疑問はあるがマジで充兄さんぐらいなんだよなぁ……あんな女っ気のない姉ちゃんを貰ってくれそうなの。


「はぁ、馬鹿な姉ちゃんにも困ったもんだ」


 俺は姉ちゃんに聞かれれば100%言い返されるであろう言葉を口にしながら俺の部屋の扉を開ける。


「んっ? なにか机の上に置いてあんな」


 部屋に入った瞬間に机の上になにかが置かれていることに気がついた俺は部屋の扉を閉めると机に向かってゆっくりと歩いていく。

 姉ちゃんがまたなにか置いていったのだろうか? ……となるとまたなにかイタズラだろうか、勘弁して欲しい。


「ってクッキーとメッセージカード?」


 また、イタズラグッズだろうと思っていた俺は机の上に置かれていたものを見て目を丸くする。俺は袋に包まれたクッキーを手に取りメッセージカードに目を通す。


「なになに?……さっきはやりすぎたすまなかった。一応クッキーだ、毒じゃない。受験勉強頑張れよ。か」


 俺は改めて手に取った袋に包まれたクッキーを見る。歪なラッピング。恐らくこのクッキーは姉ちゃんが作ったものなのだろう。

 今日が充兄さんの誕生日であることを踏まえると充兄さん用に作ってついでに俺の分も作ってくれてた感じか……? まぁ、恐らく充兄さんには市販のクッキーとでも伝えたんだろうがな。姉ちゃん馬鹿だし。


「受験勉強頑張れよ、ね」


 ……姉ちゃんは相変わらず不器用だな。

 こんな綺麗とは言いがたい字でしか本心を伝えられない姉ちゃんに俺はため息をつく。

 そして俺は英語単語帳に手を伸ばした。



 *



 時刻は24時、家族みんなが寝静まった頃俺は動き出した。目的地は隣の姉ちゃんの部屋。

 なにやら寝言を呟いている姉ちゃんを起こさないよう俺は慎重に部屋に忍び入ると、先程書いたメッセージカードを取り出して姉ちゃんの机の上に置く。内容としては、


『さっきはからかいすぎたゴメン。でも、マジで充兄さんとは仲良くしろよ? ……受験勉強頑張るよ』


 といったもの。こんな紙でか伝えられない俺もまた姉ちゃんと同じで不器用なのかもな。

 ……血筋は争えないってとこか。


「むにゃ、むにゃ。どこにも行くなっっ!」


 そんなことを考えて少し笑っていると横から聞こえた姉ちゃんの声にビクッとする。


「なんだ寝言か……驚かせんなよ」


 振り向いて姉ちゃんが眠っているのを確認した俺が寿命の縮まった思いで胸を撫で下ろして息をついていると姉ちゃんの寝言は続く。


「充、お前はどこにもいかなくていい。ただ、私の側にいろ……離れるなよ?ずっと一緒だ……」

「嫌いになったんじゃ……なかったっけ?」


 どんな夢なのかは知らないが嫌いとか言いながら夢の中では聞いているこっちが恥ずかしくなるようなプロポーズめいたこと言ってんのか……。なにやら幸せそうに枕を抱きしめる姉ちゃんを見て俺は思う。

 本当に不器用な姉ちゃんだな。



 →→→→→→→→→→→→→→→→→→→→


 次回「悪友は話したい」


伸びずに消してしまったらすいません。

m(_ _)m

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 更新が早くなるかもです。

星を……くだせぇ(そろそろ口調直した方がいいかも)


 では!

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