あとがき

あとがき さもない独り言


 こんにちは。珠邑ミトです。

 タマムラ・ミトと読みます。

 タマのあるムラの話を書いています。

 この度は『白玉の昊 序章』にお付き合いいただき、本当にありがとうございます。


 ずいぶんと長くなりました。序章なのに……。


 思えば大体十年近くに渡る絶筆期間でした。

 書く事だけで生きる意味を見出そうとしていた私が十年も書かずにいたなんて、今思えば驚きです。

 文字通りの生死の境を経験して以来、掻っ捌いて命を救ってもらった腹の傷を風呂の度に眺めながら、私は創作の世界ではなく、ただ、ヒトとして生きていました。

 正確には、生きる事しか出来ない状態であり、生きる事と生かす事に全力を尽くした十年でした。

 一個の生き物として、ひたすら全力で生きていた。そんな日々だった気がします。


 長期入院後にやむ無く腹を切った人はご存知でしょうが、あれは痛いのが辛いのではないのですよね。身体が動かんのです。病み衰えて。息ができなくて。食ってないから脳が働かなくて。まるきり、木偶でくになったような、そんな有様です。

 某漫画に描かれていた「幸せとは金と健康」というのは真理です。

 命というものは、身体というものは、簡単に零れ落ちます。

 生きるために生きる以外の余力なぞ一切ない。

 家庭内に病人がいれば尚更です。

 家族のために生きる事。そのために自分も生きる事。

 大変ながら、それで十分に満たされていた十年でした。


 そんな僕が再び書く場所に帰ってこれたのもまた、家族が切っ掛けでした。


 大体一年前、僕は息子と娘の寝かしつけをしてました。

 お子様がいらっしゃる諸兄はご承知の事と思いますが、子供は寝ないですよ、寝ろと言ったところで。大抵親の望みとは逆に、暗闇の中でテンションぶち上げて言葉数が増えるし跳ねまわるし飛び回る。そして踏まれる。


 そんな時に僕がしたのは、彼等に物語を聞かせる事でした。


 その即興で思いついた『白い玉』という物語は、日本のどこかの田舎の山中にありそうな、寂れた村で祀られている神様のお参りの物語でした。


 子供を集中させたい時に使える手はいくつかありますが、カウントダウンに並ぶものが「ゲーム感覚で何かをおぼえる」という事です。少なくとも我が子の場合は覿面に効きます。

 いいかい? この神様のお参りにはね、ものすごく面倒くさいルールがあるんだ。順番を憶えてその通りにやらないと、この神様に命をとられてしまうんだよ。君は憶えられるかい? ――子供からしたら、もうこれだけでスリル満点です。

 これをやったら次はこうして、その次はこうしないといけない、という説明をして、子供に復唱させてゆくのです。

 効果は――絶大でした。


 逆の意味で。


 確かに集中しました。よく聞きました。飛び跳ねるのを止めました。でも、目をきらっきらさせてテンションぶち上げでずっとしゃべってました。


 文字通りの大失敗です。ほんと頼むから寝てください。


 そうして生まれたのが、この『白玉の昊』という物語です。


 だから、この物語の最初の読者は、二人の我が子なのです。



 我が家には、八咫によく似た賢く優しい息子と、

 八重によく似た弁の立つ宇宙一かわいい娘がいます。

 そして、二人を授けてくれた、優しくて強くて賢くて宇宙一美しい、最愛の人が傍にいます。



 私は、本当に大したことのない人間です。

 無力で、身勝手で、大抵けらけら笑って過ごしています。

 お世辞にも優れた容姿などは持ち合わせていません。

 それでもただ一つ、この心だけは、濁らせる事なく、隠す事なく、家族に手渡せるという自信があります。


 それは、この物語を手渡したい皆様に対しても同じ事です。


 真摯な物語を届けたいと切に願っております。


 今この瞬間もまだ、友人と友人の国で戦争が続いています。

 だから、綺麗ごとの戦いを書く気はありません。酷い事もたくさん書きます。

 それでもどうか、何故それでも人は生きてゆくのか、そういう事の本質がわずかにでも掴めるような、そんなものを書き残したいと思います。


 では、次は『破章』にて。


 どうか、日々ご健康でお過ごしください。



              日本某所にて 珠邑ミト


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

白玉の昊 序章 ① 珠邑ミト @mitotamamura

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ