物語
1話 「転生後の異世界で嫌われました」
転生者は呟く。
「こんなのが異世界転生かよ……こういうのってもっと漫画やアニメみたいになるかと思ったのに」
日本の社会人だった青年は、この異世界では厄災を呼ぶものとして忌み嫌われていた。
彼の名はダッシュ。別に走るのが得意な訳じゃない。
最近やっと酒が飲める年になった。もちろん日本ではの話だ。以前の世界などもう遠い昔の微かな記憶になりつつある。
(おかしいな~、可愛い女神に会うこともなにもなかったんだけど)
「神様ー!見てますかー?俺はなんでここに居て、こんな能力なんですかー!
?」
叫びにも似た呼びかけに答えるものはいない。
「今日もダメか…。じゃぁ、ステータス!」
無論こっちも応答なし。彼が喋れるようになった日からこの日までおよそ6,666日
ダッシュは毎日欠かさずこれを行う、自分の存在を知りたくて。
ふと右手の甲にあるマークを見る。マークには、何かを掴み取るように握りしめている手が描かれていた。
能力の発現した者には体の一部に己が示す能力にあった模様が浮かび上がる。通常、2歳から10歳にかけて発現するそうだ。発現した小児は鑑定士に送られ、判別する。無論、生涯発現しないものも存在するが能力を持つ人間はさほど珍しくはない。
ダッシュにも能力があった。それが彼にとって幸か不幸かは分からない。
「――
鑑定士が震えた声でそう言ったのを今でも覚えている。
このマークは、厄災として忌み嫌わている。それもひどく。
どのくらい嫌われているかというと、鑑定後、両親が自分を置いて失踪する。
武装した人間に狙われる等等等、語りだせば枚挙に
なぜ嫌われているのかは分からない。ダッシュにできることは、革手袋でマークを、古ぼけた黒い仮面で顔を隠すことだけだった。
「ばあちゃんが生きてりゃな…」
失踪した両親に代わって自分の面倒を見てくれた老体の彼女はもういない。歳を感じさせないほど機敏だった彼女。なのに、ある日ぽっくりと逝った。
名前も知らない彼女は、ただ、何も言わず世話をし隠してくれた。そうして今日まで生き延びた。彼女の残した仮面とこの世を生き抜く術は、彼に残った唯一の形見であった。
普段喋らない老婆が逝く前に残した言葉は、
「あんた、好きなように生きてみな」
「……好きなように生きてみる。んなこと言うなら能力の使い方の一つでも教えてくれよ…。こんなもんなきゃ、きっと夢をみることだって出来たはずなのに」
老婆のいないボロ小屋でランタンを灯し、ダッシュは古びたベッドへ横たわる。
この世界は異形の者が跋扈する。
魔法にも似たこれら能力を有する者は、そうした者たちを相手にする職がうってつけだった。『冒険者』なんて呼ばれているが、そんなのは昔の名残だ。今じゃ便利屋とか傭兵とかそっちのがしっくりくる。もちろん能力を使った職はそれだけじゃない。管理、生産、商いと多方面へ展開している。
ただ、どれも競争力も激しく、大半が埋もれる有象無象になるのだ。成功したものは『
「別に勇者なんてものはいないし、この能力も世界の役に立つとは思わない。第一俺はそんな聖人じゃない。でも金は稼がにゃならんし、ばあちゃんが教えてくれた術もうってつけの職なんだよな…」
小さな瓶に詰められた老婆の遺灰をじっと見つめる。
「
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