入学式:光の王子アルト・ゲシュタルト

ユリア「アルト様が裏切るってことは、あなた以外の誰かを選ぶ訳でしょ?いったい誰を選んだのかしら?」


ミリア(ああ、どうしよう。正直にマリアと言えばマリアが完全に殺害対象となる。嘘でもユリアだと言えばマウントを取られる。かといって他の誰かにすれば当然のように、その子が殺される。だからと言って、分からないと言えば預言者としての力量を疑われる。ダメだ完全に詰んでいる)


 どう回答していいかミリアが悩んでいると教室にアルトが入ってきた。そして、ミリアの手を取り、跪いて言った。


アルト「すまない!私の覚悟が足りなかった!君にそんな予知夢を見させてしまったのは私の落ち度だ!どうか挽回のチャンスを与えてくれないか?私は、これより王子ではなく一人の男として生涯君だけを愛する事を誓う。愛妾も作らない。もし、後継ぎが出来なかった場合は、親族から後継ぎを養子にする。それでも、私は君を裏切るのか?」


ミリア(ああ、やっぱりアルトは理想の王子様だ。突然、婚約の破棄を伝えたのに、私を責めることなく自分に非があると反省し、裏切る可能性を考えて私に寄り添って全ての可能性を排除しようとしてくれている。だからこそ私は問わねばならない。私が未来にする可能性がある事を容認できるかを……)


ミリア「アルト様、私はあなたとの婚姻を果たすために、ある女性を暗殺しようとします。それでも、私を愛せますか?」

ミリア(無理よ。アルトは正義の王子様、私が法を犯すと知ったら切り捨てる。ゲームでは、そうだったもの……)

フレア(ミリア。なんて不器用なの!アルト様が、それを良しとする訳ないじゃん。でも、納得がいったわ。ゼファール派閥を脅かす存在をミリアは排除するために動いた。その結果、アルトはミリアを断罪する。なら、私はミリアの味方になるだけよ)


アルト(ミリアが女性を殺害する?そうか、その時、私はミリアを見捨てたのか……。どうすべきだ?己の正義を貫くか、それとも愛を貫くか……)


 アルトは無自覚に苦悶の表情を浮かべていた。ミリアにはそれだけで十分だった。


ミリア「即答できないようでは、結果は変えれませんね」

ミリア(やっぱり、アルトには無理よ)

ユリア(え?殺害するの?え?もしかして私?)


 ユリアは別の意味で内心、ミリアを恐れていた。


ユリア(ダメよ!弱みを見せては!はん!殺せるもんなら殺してみなさい!逆に殺してやるわ!)


 ユリアは自分を鼓舞し、恐れを顔に出す事は防いだ。


ヒイロ(暗殺か……。なるほど、姉さんならやりかねないか……。とはいえ、疑問が残る。あの姉さんが暗殺をアランに命令したとして、アランが暗殺した事を気取られるなんてありえない。

 今まで、暗殺がバレても問題ない相手の場合はアランの強さを広めるためにワザと証拠を残してきたけど、暗殺だとバレたら困る相手は病死、または事故死に見せかけて殺している。それが、失敗したことは一度もない。アランに依頼できなかった理由でもあるのか?)


アルト「待ってくれミリア!私にチャンスをくれ!」

ミリア(冷静に考えれば、私がマリアを暗殺しようとしなければ、アルトが裏切ることはないのよね……。でも、アルトにとって私は正義よりも下の存在……。頭では分かっている。法律を守るのは当然のことだって……。それでも、私を選んで欲しかった。だって、逆の立場だったら私は世界を敵にまわしてもアルトと一緒に地獄に落ちる道を選ぶんだもの……)


フレア(なんで黙ってるのよミリア!チャンスでしょう?3年間猶予をやるから私を守れって言えばマリアの護衛もミリアの護衛も問題なくなるでしょう?ああ、もう!しょうがないわね!)


フレア「ミリア。アルト様にチャンスを上げても良いんじゃない?3年後に裏切らなかったら信じても良いと思うし、その間ミリアの側を離れないって条件を付ければ、ミリアも信じることが出来るんじゃないかな?」


ミリア(フレア……。そうか、その手があったか、あれ?おかしいな何でそんな簡単な事に気づけなかったんだろう?今までなら、こんなに感情的になって判断できなくなる事なんて無かったのに……。アルトに対して、もっと冷静だったのに……)


ミリア「良いわ。チャンスをあげる。3年後、私が誰かを暗殺しようとした時、アルトが私の味方でいてくれたら信じてあげる」


ミリア(まあ、無駄な仮定なんだけどね。私はマリアを暗殺しない。でも、その時、アルトは私を好きなままなのはずなのに、予感がある……。アルトは私を選ばない。その確信があるから、きっと私はアルトを信じないんだ)


アルト「ありがとうミリア。私は誓う何があろうとも君の味方で居ると。そして、何があろうとも君を守ると」


ミリア「アラン。私の護衛はアルト様がしてくださるそうだから、マリアの護衛をお願いね」


アラン「畏まりました」

ミリア「色々連れまわしてごめんねマリア。アランを護衛に付けるから私たちから離れても大丈夫よ」

マリア「ありがとう」

マリア(もう、色々と大丈夫じゃない。なに、この状況、入学早々貴族の派閥争いに巻き込まれ、護衛が必要な状況になるって……。本当に夢だよね?これ、夢だよね?)


 マリアは現実逃避しつつも、これが夢ではないと理解しつつあった。


ユリア(なんてこと!アルト様がミリアとずっと一緒に居る状況が出来てしまった

わ……。婚約破棄も暗殺の事も、アルト様がミリア以外の女性を選べないようにするための布石だというの……。

 なんて狡猾な女……。婚約破棄なんて普通出来ない。次期国王との婚約を破棄する事によって、他の女性にアルト様が誘惑される可能性をゼロにしてしまった。

 だけど、それは自分がアルト様に愛されているという自信が無ければ出来ない事、いったい何が違うというの?美貌も家柄も性格だって負けていない。なのに何故アルト様はこんなにもミリアを……)


ミリア(ふう、何とかなったわね。これで学園生活は平穏に送れそうね)

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