入学式:魔法オタクとバカ娘

 アルトのお陰でミリアは窮地を脱した。アルトとフレアのお陰で、王子との婚約を破棄した愚か者という立場から、婚約破棄により王子からの寵愛を独占した魔性の女に昇格した。


フレア「全く、最初からこれが狙いだったのね。全部説明してくれないからハラハラしたわ」

ミリア(ごめん。フレア。結果、こうなったけど、私、ノープランだった……)


 ミリアはフレアの顔をまともに見れなかった。


マリア「では、私はこの辺で平民の教室に戻りますね」

ミリア(アレ?ちょっと待って、この後のゲームのイベントはとても優秀な方の義弟エースとちょと抜けてるけど、癒し系の我が妹クレアとの遭遇だったはず。たしかマリアが入学式が始まる前に学園を探索している時に出会うはずだけど、私が教室に連れてきちゃったから、このままだとすれ違いになっちゃう?

 出来るだけ出会いイベントは最初のお茶会までに消化しておきたい。なら、少し足止めするか)


ミリア「やっぱり待ってマリア。まだ紹介したい人が居たわ」

マリア「はい」

マリア(次は、一体誰を紹介されるんだろう?)


 マリアは、もう諦めの境地で状況を受け入れていた。ミリアは、そろそろ教室に入ってくるであろう妹クレアの婚約者、エースの登場を待っていた。さほど待たずして、教室に眼鏡をかけた長身の長髪のもっさりとした少年が入ってきた。


ミリア「おはようエース」

エース「おはようございます。御姉様」

クレア「お姉さま~。クレアも来ちゃいました!」

ミリア「あら、クレア。エースに会いに来たのね」

ミリア(本当にこの子は、エースが好きね。ちょっと抜けてるけど、私の可愛い妹、絶対に幸せになって欲しい。さて、マリアの反応は?)


マリア(なんか、頭の良さそうな人が来たな~。でも、なんか貴族っぽくないな~)

ミリア(あんまり、興味を持っていないわね。よしよし)


ミリア「さて、エース。紹介するわ。こちらはマリア。今日から私の親友よ!この意味、分かるわよね?」

エース「もちろん分かりますよ」

エース(こちらの陣営に引き込んだ有能な人材か、どこの家の者だ?)

エース「私は、エース・ミラージュ。クレア様と婚約させて頂いている」

マリア(婚約させて頂いてるって事は貴族じゃない可能性もあるわね)

マリア「私は、マリア・クロダ。ミリア様のご厚意でお友達にさせて頂いています」

エース(ふむ、私が身分を名乗らなかったから、彼女も身分を名乗らなかったか……。情報を無暗に明かさない慎重さはあるようだな。なるほどミリア様が目にかけるわけだ)


エース「ちなみに、私は伯爵家なのだが、君は?」

マリア(うえっ!やっぱりこの人も貴族だった!)

マリア「すみません。農民です……」

エース(のーみん?ノーミン?農民!ミリア様、何を考えてるんだ!?農民を親友だと!いや、フレア様が平然とされている。なるほど、訳ありという事か……)

エース「謝ることはありませんよ。ミリア様が認めた方です。身分など気になさらずに」

クレア「わぁ~。お姉さまにフレアお姉さま以外にお友達が出来たんですね。嬉しい!私はクレア。お姉さまの妹です。よろしくお願いしますね。マリアお姉さま」


マリア(この子が、ミリア様の妹?なんか、全然似てないし、失礼な言い方だけどバカっぽいような……。でも、どことなく私の妹と同じ雰囲気がある。とはいえ、相手は貴族なんだからちゃんと一線は引いておかないと)


マリア「よろしくお願いします。クレア様」

クレア「呼び捨てでかまいませんわ。マリアお姉さま。クレアは『様』なんてつけられたら頭を良くしなきゃいけなくなっちゃいます」

マリア「え?それってどういう意味です?」

クレア「『様』って頭の良い人とか尊敬できる人につけるって聞きました。クレアは頭が良くないので『様』を付けられると困るのです」

マリア(なぜ、自信満々に自分は馬鹿ですと自己紹介出来るの!?)

マリア「ああ、ええっと……」

マリア(なんと答えるのが正解か分からない……。肯定したら侮辱になるし、かといって否定するほどの材料が今は無い……)


エース「クレア。そんな事を言ってはいけないよ?クレアは馬鹿じゃないし、『様』は馬鹿でも尊敬できないクズ相手でも言わないといけない場合があるんだよ?」

マリア(なんて辛辣な説明なの!?)

クレア「そうなんですね~。やっぱりエース様は賢いですね」

エース「私は賢いのではないよ。だた、貴族の慣習と、傲慢を知って、それを皮肉っているだけさ」

マリア(ああ、この方は、本当に頭が良いんだ……。貴族がしている横暴も、それを正当化するための言い訳も理解した上で、貴族に属する自分を冷静に判断し、その上で無知が故に汚れていないクレア様を愛してるんだ……)


クレア「皮肉って、他人を羨んで言うものでしょ?エース様は誰も羨んではいないじゃないですか」

ミリア「クレア。エースを褒めたいのは分かるけど、皮肉は高位の者が下位の者をいたぶる為に言う事もあるのよ」

クレア「でも、エース様は弱いものイジメをしている人間にしか皮肉を言いませんわ」

ミリア「そうね。エースは、自分より強い立場の人間にしか皮肉を言わないわね」

ミリア(クレア。エースの自慢をしたいのは分かるけど、これ以上マリアの前でエースの株を上げないで!もし、マリアがエースの良い所に気づいて、好きになったら苦労するのは貴女なのよ!)


マリア(エース様も本当に素敵な方なんだ……。平民が置かれている状況も、貴族が行っている横暴も分かった上で私に接している)


エース「クレア様もミリア様も私を褒めすぎです。私は土属性の魔法使いですよ……。皮肉は自分が無能だから言っているんですよ……」

フレア「あなた、私に喧嘩売ってる?」

エース「そんなつもりはありません」

フレア「土属性の魔法使いが無能って、私の父上であり土属性の魔法使い『鉄筋の』コードが無能だったと言ってるの?」


 エースの自虐にフレアは怒っていた。本当に自分の父親を侮辱されたとは思っていないのだ。


エース「コード様は、有能ですよ。私が無能なだけです」

フレア「はぁ~。全くエースは頭が良いのに、陰口は気にするんだから……。良い事!!あなたは無能なんかじゃない。私のお父様に勝って『賢者』になったグレン・ミラージュの息子にして後継者なんだから胸を張りなさい!」


 エースへの陰口は、言いがかりに近かった。魔法を使った戦闘能力も学力も礼儀も知識も性格も非難しようがないほど出来る魔法使いだった。土属性という攻撃よりも防御が得意な魔法が多いがゆえに地味で、大成する魔法使いが少ないという理由で、馬鹿にされる属性、それだけが唯一エースを貶める根拠だった。


マリア(う~む、ミリア様のお友達には、やっぱり普通の人は居ないんだな~。私だけ場違いだ……)

エース「分かりました。ですが、私が未熟者なのは紛れもない事実ですから、そこだけは譲れませんよ。この程度の実力で満足していては、父にも宰相閣下にも笑われてしまいますからね」

フレア「頑固ね~。でも、少しは認めなさいよ。私のお父様も貴方の事は褒めてるんだからね」

エース「そうなのですか?」

フレア「入学試験を見ていたそうよ。その上で、他の魔法使いに比べて頭1つ抜きんでているって言ってたわ」

エース「はは、宰相閣下に、そう言って頂いているとは嬉しいです」


 エースは憧れている魔法使いに認めて貰えたことを子供の様に喜んでいた。


フレア(なんだ、素直に喜ぶことも出来るんじゃない)

クレア(エース様、嬉しそう良かった~)

ミリア(あれ?これ、エースとフレアが仲良くなるフラグじゃないよね?)

マリア(フレア様って、もしかして人たらしなのでは?)

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悪役令嬢に転生してしまった。だから、私を裏切る婚約者の事を絶対に信じません! 絶華望(たちばなのぞむ) @nozomu_tatibana

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