悪役令嬢に転生してしまった。だから、私を裏切る婚約者の事を絶対に信じません!
絶華望(たちばなのぞむ)
桃園の誓い
読み方
「」普通の会話
()心の声
『』キーワード
<>呪文
桃が咲き乱れる季節、ゲシュタルト王国が所有する桃園で王太子アルト・ゲシュタルト12歳の誕生パーティーが開催されていた。アルトは『光の王子』と呼ばれる金髪碧眼の美少年だった。
時刻は昼、多くの貴族たちが自分の娘を次期王の王妃にするべく、もみ手をしながら王太子アルトに紹介していた。
貴族A「アルト殿下、ご機嫌麗しく存じます。これに居りますのは私の娘、『貴娘A』に御座います。殿下のお眼鏡に叶うと良いのですが……」
貴娘A「アルト殿下、よろしくお願いします」
貴族の娘Aは可愛らしく微笑みアルトに貴族令嬢らしい挨拶をした。だが、彼女は親に言われたことをやっているだけで、アルトに対しては恐怖を覚えていた。理由は、親にある。「アルト様の機嫌を損ねてはいけない。もし、損ねたのならお前は死ぬ」と言われていたからだ。
親としては子がアルトの機嫌を損ねて嫌われないように釘を刺した程度の認識だった。だが、娘からしたら、アルトは自分の生殺与奪の権を持っている神とも悪魔とも言える存在になってしまった。
アルトは、その目を嫌っていた。腫れ物を触るような目、恐怖に満ちた目、権力者に媚びへつらう目、だれもかれもがそうだった。
そんなアルトの目の前に二人の少女が挨拶に来ていた。二人は顔が同じだった。彼女たちは双子だった。黒目黒髪長髪の美少女姉妹だった。だが、二人には決定的な違いがあった。それは表情であり、動きであり、雰囲気が正反対だった。
姉のセリアは太陽のように明るい表情で、活発な動きをしていた。妹のミリアは月のように物静かな表情で、貴族らしい優雅な動きをしていた。
セリア「初めまして王子様、私はセリア、あなたは?」
アルト(何を言ってるんだ?この子は、私がアルトだと聞かされていないのか?)
ミリア「お姉さま。こちらはアルト殿下ですよ。先ほど、お父様から聞いていたでしょう?」
セリア「そうだっけ?でも、私は彼から聞きたいな」
その少女は無邪気に笑った。王族とか貴族とか関係なしに、ただ友達を作るためにお互いの名前を教えあう。そんな、権力や階級など気にしない、そういう対等な関係で友達になろうとアルトは言われた気がした。
アルト「私はアルト。この国の次期国王だ」
セリア「うわぁ、ダザ!自分の自己紹介に親から譲り受ける予定の権力を含めるんだ。ちょっと幻滅だな~。私が好きになった。アルトが、こんな小さい男だったなんて……」
ミリア「お姉さま!死ぬ気ですか?」
セリア「何言ってのよ。この程度で死刑にするような男なら私は推してないわ!こんな無礼な発言しても笑って許してくれて、自分の行いを反省し、次に会う時には良い男になっている。それが、私の知っているアルトよ」
アルト(なんだ、この女。私が怖くないのか?それに、私が許すことを知っている?)
アルト「いや、すまない。私が間違っていた。私はアルト。次期、国王という以外、何の取り柄もない男だ」
アルト(実際に、私に寄って来るのは時期国王の権力を利用しようという者ばかりだ……)
セリア(アレ?なんか、落ち込んでる。もっと自信に満ちた反応を期待してたんだけど、私が思うよりも繊細なのかしら?)
セリア「あ~、ごめんなさい。アルト様は素敵な方です」
アルト(なんだ?さっきまでとは態度が違うぞ?)
アルト「本当に、そう、思っているのか?」
セリア「ええ、ですから。私とお友達になってください」
アルト(お友達か……。そんな事を言われたのは初めてだ。面白い人だな、さすが『ゼファールの預言者』の娘だ)
アルト「気に入った。私の婚約者は君に決めた」
セリア「はぁ?なんで?あんたはミリアが好きなはずでしょ?」
アルト「何を言ってるんだ?僕は君が気に入ったんだ。他の女性に興味はない」
セリア「ふ~ん、でもね。私にだって選ぶ権利があるのよ!私を本気で好きにさせたら考えてあげる」
アルト「良いだろう。望むところだ」
ミリア(ああ、またこの夢か……。存在しなかった過去、お姉さまが生きていたら起こっていたかもしれない出来事……。実際にはアルト様は私を気に入ってくださり、婚約者にしてくださった。明日はゲシュタルト王国王立魔法学園の入学式か、アルト様と楽しい学園生活を送れるといいな)
この時、彼女はまだ幸せだった。15歳から入学できる学園での生活に夢と希望を抱いていた。
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