入学式:起床

ミリア(ああ、なんてこと?全て思い出してしまった。この設定、あのゲームの世界だわ……)


 ミリアは自分の寝室で目を覚ました。そして、唐突に前世の記憶を思い出してしまった。30代の喪女で乙女ゲームにはまり、そしてゲームをクリアした後のお祝いピザパーティ(一人)の最中にエコノミー症候群からの心臓発作で死んでいた。

 直前にクリアした乙女ゲーム『ゲシュタルト王国物語』の世界に転生していることを自覚した。


ミリア(アルトは、どうあがいても私と結ばれない運命……)


 ゲシュタルト王国物語では、6人の攻略対象と5人のライバルが登場する。ミリアの役どころは悪の黒幕、最終的に主人公を暗殺しようとする悪役令嬢だった。

 ゲームでは6人の攻略対象ごとにバットエンド、ノーマルエンド、ハッピーエンドが用意されており、それぞれ攻略対象とそのライバルとの親密度によってエンディングが変化するマルチエンディング方式だった。

 主人公がミリアの婚約者アルトとのエンディングを迎えた場合、バットエンドで処刑、ノーマルエンドで島流し、ハッピーエンドでアルトとの婚約解消であった。

 だが、このゲームにはもう一つエンディングが存在していた。それはアルティメットエンドと呼ばれるもので、主人公が全ての攻略対象と全てのライバルとの親密度を最高値まで上げた時に見れるエンディングだった。

 このエンディングの場合、主人公は誰とも結ばれずにハーレムエンドを迎えることになる。ただし、このエンディングでもミリアとアルトは結ばれることが無かった。

 また、他の攻略対象のバットエンドとノーマルエンドでもミリアは主人公を暗殺しようとするのでバットエンドで処刑、ノーマルエンドで島流しが確定している。なぜ、他の攻略対象を選んでもミリアが暗躍するのかは、追々説明する。


ミリア(はぁ~。どうあがいてもアルトは私を選ばない。なら、アルトの事は信じない!もっと私に相応しい人を見つけて幸せになってやるんだから!)

ミリア「よ~っし!気合い入れて行くわよ~」


 突然のミリアの大声に驚いて、隣室に控えていた赤髪のメイド、レイラが慌てて扉を開けてミリアの寝室に入ってきた。


レイラ「どうしたんです?お嬢様」

ミリア「大丈夫よ!問題ないわ!今日は入学式よね?着ていく服はドレスではなくタキシードで行くわ!」

レイラ「お嬢様?急に何を言い出してらっしゃるんです?寝ぼけてますか?」

ミリア「いいえ!私はアルトとの婚約を破棄します!あんな男、絶対に信じない!」

レイラ(どうしたんだろう急に?何か悪い夢でも見たのかしら?だとしても)

レイラ「お嬢様、何があったのかは存じませんが、今日着ていくお召し物は既に用意が整っております。今から変更は出来ません」


ミリア「え?そうなの?」

レイラ「当然です。今日はお嬢様の入学式!ゼファール家の令嬢として相応しい服装をして頂きます!」

ミリア「ああ、うん。分かった」

ミリア(レイラ……。いつにも増して気合いが入っているわね)

レイラ(それにしても、なんだろういつものお嬢様と様子が違う……。なんか優雅さがなくなったような……。いや、それどころじゃない。今はお嬢様を完璧な状態にして送り出さなければ!)

レイラ「さあ、起きてください。支度しますよ」

ミリア「は~い」


ミリア「う~む。我ながら完璧よね」

レイラ「そうですわ。お嬢様はお美しい。これならアルト様もお喜びになりますわ」

ミリア「ああ、うん。アルトか……」

レイラ「お嬢様?どうなされたんですか?」

ミリア「私、あいつと結ばれる運命じゃないみたい」

レイラ「ええ?では、予知夢を?」

ミリア「ああ、うん。そんな感じ……」

レイラ「そうですか、それは気の毒に……。ですが奥様がよく言ってたではありませんか、悪い未来は変えてしまえばいいって」


ミリア「まあ、そうなんだけど、なんか信じていたものに裏切られた気分でやる気が出ないんだよね~」

レイラ「まだ、裏切られていないんですから、大丈夫ですよ。まだ、未来の出来事なのですよね?」

ミリア「う~ん、だけどな~。裏切る未来があるっていうのが許せないのよね」

レイラ「ああ、そういう事ですか……」

ミリア「浮気する可能性があるって思うと婚約を破棄したくなる……」

レイラ「一度、奥様と相談されてからお決めになった方が良いと思いますよ」

レイラ(ああ、やっぱり何かおかしい。まるで別人の様だわ。昨日までのミリア様と態度が違いすぎる……。こんなに感情を表に出す方ではなかったのに)


ミリア「まあ、良いわ!とりあえず入学イベントでやる事やってから考えるか」

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