入学式:アルトの失恋
朝食を終え、ゼファール家自慢の無振動馬車に乗り、学園まで移動したミリアとヒイロはアランを伴って学園正門で馬車を降りた。
アラン「では、お嬢様。私は邪魔にならないように姿を隠して護衛いたします」
ミリア「よろしくね」
アラン<深みへいざなえ闇の精霊、我が姿を隠せ!インビジブル>
アランの姿は誰からも認識されなくなった。
ヒイロ「アラン。前から聞きたかったんだけど、その魔法で風呂場とか覗いてないよな?」
アラン「女性の裸に興味はありませんよ?レイラ姉さんに、そう仕込まれましたから」
ヒイロ「え?どういうこと?」
アラン「女性の裸を見ても興奮しないように、姉さんの裸を見ても何も感じないように訓練を受けました。私にとって女性の裸は、そこに落ちている石と同じです。どこにでもあるものになっているので、覗く意味はありませんよ?」
ヒイロ「え?お前、そんな羨ましい訓練を受けてたの?」
アラン「羨ましいですか?女体を見慣れてしまった私は、女性を見て興奮するといった感情が無くなってしまいました。知らないからこそ楽しめることもあるのでは?」
ヒイロ「あ~、なるほど、なんとなく理解できたぞ。愛し合い全てをさらけ出した夫婦が、なぜ浮気をするのか、そこに理由がありそうだな」
アラン「神秘は魅力的なのです。知ってしまったら、ただの現実、そういう事ですよヒイロ様」
ミリア「なるほど、つまり、私という婚約者がいながら、今まで周りに居なかった庶民の女が現れた事で、アルトは浮気する。そういう事か……」
アラン(あれ?ミリア様は。こういう話題に乗ってこないはずなのに、今日はどうしたんだ?)
ヒイロ(アレ?僕、不味い話題を振っちゃったかな?元さやに戻っちゃう?)
ミリア「私という心を通わせた存在がありながら、そんなくだらない理由で、私を裏切るというのねアルト!絶対に許さない!」
アラン(予知夢の話は聞いていたが、ここまで怒る事なのか?今のところアルト様はミリア様に対してとても誠実なんだけどなー)
ヒイロ(ああ、良かった。なんか分からんが、アルト様の株がダダ下がりだ。僕の株も下がりかねないギリギリの話題だったが結果オーライだな)
正門には『光の王子』と呼ばれる美少年がミリアを待っていた。
アルト(学園生活か~、王族とか貴族とかしがらみを無くして対等にミリアと一緒に過ごせる貴重な3年間が始まる。まずは笑顔で挨拶だ。ミリアは私を受け入れてくれている。スマートにエスコートしよう)
アルト「ミリア。いつも美しいと思っていたけど、今日はいつにも増してと美しいね。どうか、この私にエスコートさせてくれないか?」
アルト(完璧な対応のはずだ)
ミリア(ああ、いつもながら完璧な挨拶ね。今までは、何の疑いもなくアルトを信じられた。でも、未来を知った今、全部薄っぺらく聞こえてしまう。どうせ、裏切るんだから)
ミリア「王太子殿下、私の能力をご存じですか?」
アルト(あれ?何を間違った?王太子殿下?ミリアが私に不満を持った時の呼び名だ。私は何をしくじった?)
アルト「知っているとも母君の『ゼファールの預言者』の力を受け継ぎ、未来に起こる事を予言できる」
ミリア「その通り!今朝、あなたが裏切る未来が見えました。もう、信じる事は出来ません。婚約を解消したいと思います」
アルト「待ってくれ!私は君を決して裏切らないと誓いを立てている。それは騎士の誓いだ。破れば自害する覚悟でいる。そんな私が裏切ると?」
ミリア「ならば、今すぐにでも撤回する事をお勧めしますわ。だって、あなた私を見捨てるんですから……」
ミリア(確かに私のゲーム内での行動には問題があった。嫉妬に狂い主人公を脅迫し、イジメて退学させようとしていた。最後にはアランを差し向けて暗殺未遂……。なにも擁護される理由は無いことも理解できる。でも、婚約だけは解消してほしくなかった……。その後で主人公と笑顔で結ばれる姿なんてもっと見たくなかった……)
ミリアは心底悲しそうな目でアルトを見つめていた。
アルト(ミリア……。ああ、なんて事だ。本当に心から悲しんでいる。本当に私が裏切るのか?この私が?)
ミリア「さようなら、アルト様。もう、私に気安く声をかけないでください」
アルト「ミリア……」
ヒイロ(うわぁ~。きついなこれ……。他人事とはいえ、アルトが可愛そうになってくる。未来の自分が裏切ると言われても納得できないだろうな~。でも、姉さんの占いは当たるからな……。アルト、悪いけど姉さんは僕が幸せにする。だから、安心してくれ)
ミリア(さて、ゲームではこの後、主人公がやってきてアルトに挨拶をして、そこで私は主人公に嫉妬し、貴族の権力を振りかざして平伏を強要して服を汚す流れだったはず。だから、私はこのまま立ち去って、主人公には何もしない。そうする事で私が望む未来『アルティメットエンド』へ一気に近づけるはず)
アルティメットエンドは全ての攻略対象とライバルとの親密度が最大値になった時に見れるエンディングなので、親密度が下がるようなイベントを回避し、最短で親密度が上がるようにミリアは振舞うことにした。
ヒイロ「それで、この後はどこに行くんだい姉さん?」
ミリア「校舎の玄関である人物を待つのよ」
ヒイロ「ある人物?」
ミリア「ええ、この学園生活において私が友としなければならない重要な人よ。ヒイロ、その人と仲良くしなさい。これは命令よ!」
ヒイロ「アイマム!」
ヒイロは兵隊が上官に敬礼するようにミリアに敬礼していた。それは、悲しいことに3年間で培われた姉と弟の力関係を現していた。ヒイロはミリアに逆らえない。それは絶対の不文律だった。
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