入学式:出会い
正門でアルトを振ったあと校舎の玄関でミリアはヒイロを伴って仁王立ちしていた。視線の先には正門でうなだれて居るアルトが居た。
ヒイロ「姉さん。ここで待つの?」
ミリア「ええ、ここで待つのよ」
ヒイロ(アルトが来たら、もう一度姉さんに振られるんじゃないのか?鬼のような仕打ちだな……)
ミリア「ヒイロ、何か言った?」
ヒイロ「いいえ、何も」
ヒイロ(なんで心の声が聞こえるんだよ!相変わらず姉さんは怖い……。でも、美しいんだよな~)
ミリア(ヒイロめ、心の中で私の悪口言ってたわね。でも、許すわ。今は主人公と最高の出会いを演出し好感度を上げて友達になるのが最優先なんだから!)
さほど待たずして、正門に一人の少女が現れた。金髪碧眼ミディアムストレートの美少女、このゲームの主人公マリアだった。主人公の設定は、騎士の娘、商人の娘、農民の娘と3種類あり、それぞれ特徴があった。
騎士の娘は初期装備がよく、騎士階級なので攻略対象とライバル共に親密度が高い状態からスタートできる。簡単に言えばイージーモードである。
商人の娘の場合は、初期装備は普通だが金銭的余裕があるが、平民階級なので攻略対象とライバル共に親密度は普通だった。ノーマルモードといったことろだ。
そして、最後の農民の娘は初期装備が農具で金もない。貴族から見たら奴隷と同じ階級なので攻略対象とライバル共に親密度0からのスタートである。難易度はハードモードである。
ミリアは、主人公がどんな身分であろうと友達になるという事だけは決めていた。だが、ミリアが前世でクリアしたのはイージーモードだけだった。だから、ミリアは騎士の娘に来て欲しいと思っていた。
ミリア(騎士の娘来い!騎士の娘来い!騎士の娘来い!)
ミリアは必死に祈っていた。自分が目指すエンディングに到達するために、クリアしたことのある騎士の娘が来ることを願っていた。ちなみに、主人公の名前はマリアだった。苗字は身分によって違っていた。騎士ならブラット、商人ならゴールデン、農民ならクロダだった。
マリア「おはようございます」
マリア(うわ~金持ちがいっぱいだ。こんな豪華な所で勉強するの?イジメられないかしら?あれ?なんだろうあの人?あんなところに突っ立ってる。でも、すごい美少年、金色の王子様みたい!きっと貴族の御曹司なんだろうけど、挨拶するぐらいは許されるよね……)
マリア「お、おはようございます」
アルト「ああ、おはよう……」
マリア(どうしたんだろう?元気がないな、なんかゾンビみたいな死んだ顔をしてる。おなかでも痛いのかな?)
ミリア(よし、親密度が下がるイベントは回避した。ここから、マリアと友達になるんだ!)
マリア(あれ?校舎の玄関にすごい美人が居る。服も高そう。どこかの貴族令嬢かしら、目を付けられないようにしないと……。隣村のおっさんは貴族と目が合っただけで処刑されたって聞くし、気配を消して静かに去ろう)
ミリア「ごきげんよう」
マリア(ひぃっ!なに?なにが不味かったの!?)
マリア「申し訳ございません!」
ミリア(え?いきなり土下座!なんで!ああ、服に汚れが……。これじゃあ、アルトと別々に会った意味がないじゃない)
ミリア「どうしたの?いきなり土下座なんてして……。まずは立って」
マリア「はい!」
マリアは、上官に命令された兵士の様に飛び上がるように立ち上がり、直立不動の姿勢をとった。ミリアはその手を取り優しく語りかけた。
ミリア「そんなに緊張しないで、私はただ、あなたと友達になりたくて声をかけたの」
マリア(ええ!こんなお嬢様が農民の私と友達!いやいやいや無理無理無理)
ヒイロ(この子が、姉さんが友達にしたかった子か……。服装からすると貴族ではないな、良くて平民、悪けりゃ農民だな……。どういうつもりだ?)
ヒイロはミリアの思考が理解できなかった。身分の差が大きすぎるのだ。ゼファール家は公爵だった。王、大公に次ぐ権力者である。公爵令嬢の友達として相応しいのは最低でも騎士階級の者である。そして、この世界の貴族にとって農民は奴隷と同じぐらいの身分という認識だった。
マリア「ご容赦ください。私の様な農民の娘に、あなた様の様な高貴な方と友達になるなんて恐れ多い事、なにとぞご容赦ください」
ミリア(ああ、農民か……。農民……。何もかも全てのハードルが高いな~)
ミリアは知っていた。農民と貴族の間には越えられない壁がある事を……。
ミリア(だが、諦めたらそこで試合終了ですよと、有名な監督も言っていた。私も諦めずに頑張ろう。とりあえず出まかせでもなんでも良い。マリアには貴族と同等の価値がある事を納得させないと)
ミリア「私はミリア・ゼファール。ゼファールという名前に聞き覚えは?」
マリア(ゼファール?『ゼファールの預言者』?未来を視る力を持つ『ゼファールの魔女』とも言われる魔法使いの家名……。って事はゼファールの預言者の娘?いやいやいや、もっと無理、王様の側近中の側近じゃない。彼女の命令でいくつもの貴族が断罪され、悪の組織が壊滅に追いやられた。その娘って事は、機嫌を損ねたら私の人生どころか家族全員の人生が終わる!)
マリア「あの……。私はどうなっても構いません。どうか家族の命だけは……」
マリアは天敵ににらまれた小動物のように涙目になり、プルプルと可愛く震えながらミリアに懇願した。
ミリア(なんで、こうなるの?)
ヒイロ(いや、姉さん。ショック受けてるようだけど、これは普通の農民の反応だよ?ゼファール家の令嬢と言えば農民からしたら王に次ぐ権力者、逆らったら終わり、そんな事を伝えたら友達なんて無理だよ。そんな事も分からない姉さんだったっけ?)
今までのミリアなら決して身分の違いを無視した行動をとらなかった。ヒイロには今のミリアが身分制度を忘れているかのように見えた。
ミリア「あなたの家族に危害を加えるつもりはないわ。ただ、私と友達になって欲しいの」
マリア「なぜですか?」
ミリア「言ったでしょう。私はゼファール家の娘、だから、未来を見通す力を持っているの。その未来であなたは聖女になるの。この意味が分かる?」
マリア(私が聖女様に?あの伝説の聖女?魔王が現れた時、教会に認められたものがなるという死者を蘇生する力を持った聖人に私がなるっていうの?)
ミリア(驚いているわね。よしよし、ゲームのアルティメットエンドでは聖女になるんだから嘘は言ってないし、聖女になるってことは王よりも大きな権力を持つことを意味する。だから、納得して頂戴、マリア!)
マリア「本当に、私が?」
ミリア「預言者の娘の言葉が信じられない?」
マリア(もし、本当なら、私と友達になりたいっていうのも理解できる。でも、私が?農家の娘の私が?)
マリア「正直に言うと信じられません」
ミリア「え?」
ミリア(これでも、ダメなの?)
マリア「ですが、ゼファールの預言者の言葉を疑うことも出来ません。私は農家の娘、マリア・クロダ。田舎者ゆえ、ミリア様にご不快な思いをさせるかもしれません。それでも、私と友達に?」
ミリア(農民の娘であろうともマリアは主人公、仲良くしないと、どんなエンディングに向かって行くのか分からない。だから、動向を探る為にも友達でいないと……)
ミリア「もちろんよ。それに、友達になるんですもの無礼な位がちょうどいいわ」
マリア(ああ、本気でこの人は私と友達になりたいんだ)
マリア「分かりました。不束者ですがよろしくお願いします」
ミリア「良かった。ありがとう」
ヒイロ(ふ~ん。聖女ね~。あの胡散臭い教会の教えか……。本当なら、さっきまでの身分を無視した行動も理解できる。ふ~ん、この娘がね~。この学園生活、姉さんとアルトがイチャツクのを観察するだけのツマラナイ時間だと思ってたけど、面白くなってきたな)
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