入学式:派閥闘争

 学園の玄関から1階にある1年生の教室に向かってミリアたちは歩き出した。ロイドは2年生なので2階の教室に向かった。


フレア「それで、マリアの護衛はどうするつもり?」

ミリア「ゴ・エ・イ?」

フレア「呆れた。何も考えてなかったの?ミリアらしくない」

ミリア「ああ~~~~~~!」

ミリア(しまった!忘れてた!そうだった。私、派閥闘争の当事者だった~~~!ゲームだと主人公にあまり関係がないから全然触れられてなかったけど、私ゼファール陣営の次期リーダーだった~~~)


 ミリアが所属しているゼファール陣営はミリアの母であるイリアを中心とした貴族の派閥だった。現在は王からの信任と民衆からの圧倒的支持により、権力を思うがままに振るっていた。

 結果、他の貴族たちから反感を買い敵対する貴族が多かった。だからこそ、ミリアは幼少期から次期リーダーとして、つまり次の預言者として友人を作っていった。それが、ゲームに登場する攻略対象とライバルたちだった。

 ミリアにとってマリアは自分の陣営に引き込もうと思っていた有力者を横からかっさらって行く、まさに泥棒猫の様な存在だった。だからこそ、ミリアは最終的にはマリアの暗殺未遂までやってしまったのだ。


ミリア(まずい!警備兵の前で大見え切って友達だなんて言ったから、最悪マリアは敵対陣営に殺されてしまう……。どうしよう?どうしたら……)

フレア「何を悩んでるのよ?アランに護衛を任せればいいじゃない。ミリアには光の王子様が付いてるんだし、学園内なら護衛は不要でしょ?」


 ミリアは全身から冷や汗が噴き出すのを感じていた。


ミリア(ああ~~~~~~~~~。やってしまった~~~~~。そうだった~~~。私、命狙われてるんだった~~~。前世の記憶が蘇って、アルト憎しで婚約破棄だって大見え切ったけど、アランが居るから問題ないって思ってたけど、マリアの護衛の事何も考えてなかった~~~)


フレア「どうしたの?顔が青いよ?」

ミリア「あのね。私、さっきアルトを振ったの?」

フレア「ん?フッた?フッた?え?振った!」

ミリア「うん」

フレア「え?何考えてんのミリア?正気なの?」

ミリア「ああ~~~。3年後にね。アルトが裏切るって予知夢を見てね。それで、ちょっと勢いで振っちゃった♪」

フレア「え?どうすんの?アルト様を振ってどうすんの?今まで集めたお茶会のメンバー意味無くなるじゃん!」

ミリア「まあ、そうなんだけど……」

フレア「何とかなるの?」

ミリア「なんとかなると思う」

フレア(ああ~~~。何だろう。今まで私が見てきたミリアと何かが違う気がする。急に馬鹿になったように見える。でも、今までミリアは意味のない行動はしてこなかった。だから、きっとこれにも意味はあるはず)


 フレアは大きく深呼吸をした。フレアは自分の父親を誇りに思っていた。そして、その父を宰相の地位に推したミリアの母、イリアを信じていた。フレアの父、コードは平民だった。

 宰相になる以前は、魔法使いの最高位職『賢者』の座をかけて現在の賢者グレン・ミラージュと争っていたが、グレンとの決闘に敗れ、冒険者として生涯を終える予定だった。

 だが、王が、イリアの「コードは歴史に名が残る名宰相になる」という預言を信じて特別に爵位を与え宰相にした。


 それから、コードとその娘フレアの人生は大きく変わった。コードにとってイリアが恩人であるように、フレアにとってミリアも恩人だった。イリアがコードの力を認めて欲した様に、自分もミリアに認めらて友達になったと自負していた。だから、フレアはミリアを信じた。


フレア「分かった。なら、色々問題にはなると思うけど、私とミリアでマリアを守りましょ」

ミリア「どういうこと?」

フレア「本来、貴族の教室に平民は入れない規則だけど、無理やり連れて行くわよ」

マリア(夢の中だからか、すごい過激な状況になっていくな~。王太子殿下と婚約中の預言者の娘が婚約破棄していて~、そんでもって私は護衛が居ないと危険な状況になっていて~、それを回避するために貴族が大勢いる教室に連行されるのか~。私、生きて帰れるかな~。でも、大丈夫!夢だから大丈夫!)


 マリアは、自分の置かれた状況がとんでもなく悪くなっていることを理解し、絶望しつつも現実逃避していた。


ミリア「フレア!ありがとう頼りになるわ」

ミリア(さすが、恋愛以外は完璧な女!頼りになる~)

ヒイロ(う~む、やはり姉さんが変だ。こんな行き当たりばったりに行動する事なんてなかったのに……)


フレア「そう思うのなら婚約を破棄する前に相談してほしかったわ」

ミリア「ごめん」

フレア「そもそも、アルト様が裏切るのは3年後でしょ?それまでは良いように利用して、裏切るタイミングで証拠を集めて断罪すればいいじゃない」

ミリア「それは、当事者じゃないから思いつく意見だと思うな~。だって、考えてみてフレアの好きな人が裏切ると知ったら冷静で居られる?」

フレア「ごめん。無理。考えてだけで泣きそう……」

ミリア「分かってくれたのならいいわ」


 ミリア、フレア、マリア、ヒイロ、アラン(透明)は1年生の貴族クラスの教室に入った。その瞬間、教室の空気が変わる。生徒の全ての視線がミリアに集まっていた。そして、そのミリアに金髪碧眼の結婚式で見るようなウェーブのかかったポニーテールの巨乳美女がミリアを見下しながら近寄ってきた。

 彼女の名はユリア・アウグスタ。名門貴族にしてミリアの敵対派閥のリーダー的存在だった。貴族の階級も公爵で対等、美貌を比べても月の美しさを持つミリアと太陽のような輝く美しさを持つユリアは対等だった。


ユリア「ごきげんよう。ミリアさん。去年の舞踏会以来ですわね」

ミリア「ごきげんよう。ユリアさん。今日もお美しいわね」

ユリア(はん!心にもないことを良くも平然と言えるわね。アルト様の寵愛を受けているくせに!)

ミリア(うぁ~~~。面倒な奴が来た~~~。アルトとの婚約を破棄にしたって言ったら喜びそうだけど、絶対にマウント取ってくるだろうな~~~)

フレア(ミリア。分かってると思うけど、アルト様との婚約破棄は自分から言ってはダメよ)

ヒイロ(やっぱり、君は絡んでくると思ったよユリア。君は姉さんに負けて以来、ずっとアルトと結ばれる為に、姉さんとアルトの関係性がどうなっているか探るためだけに姉さんとの会話を続けてきたんだもんな、今日は朗報がある。僕が話しやすいように話題を振ってくれ、いつものように)


 ヒイロは自分の目的を達成する為にミリアのライバルに塩を送る機会を狙っていた。


ユリア「今日から、同じ学び舎で研鑽を積むことになるわね。出来るだけ仲良くしたいものね」

ミリア「そうね」

ユリア(ここまでは、社交辞令よ。さてと、聞かせてもらおうかしら?なぜ、アルト殿下と一緒に教室に入って来なかったのか……。あなたがミスをしてアルト殿下を機嫌を損ねたのか、それとも別の用事でアルト殿下が遅れているのかをね)


ユリア「ところで、アルト殿下はご一緒では無いのですか?婚約者であるあなたが来たのならよほどのご用事がない限り一緒に来られると思っていたんですけど?」

ミリア「ええ~っとその~」

フレア(なによ、その、何か言いにくい理由があるって態度は!いつものポーカーフェースはどこにいったのよ!ここでアルト様との婚約破棄がバレたら、ゼファール派閥は求心力を大きく損なうのよ!)


ヒイロ「姉さんは、アルト殿下との婚約を破棄したんだ」

ユリア「婚約を破棄?なんで?」

ヒイロ「3年後に裏切るだってさ、アルト殿下が」

ユリア「へぇ~。それが本当なら面白い話ね」

フレア(ちょっと!ヒイロ!あんたはどっちの味方なのよ!)

ミリア(ヒイロめ~。ちょっと優しくしてやったらつけあがりやがって~~~)

マリア(これって、権力闘争に巻き込まれた挙句に負ける陣営に引き込まれたのかな~。まあ、夢だし、成り行きを見守ろう)

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