入学式:友達
マリア「あの、初めましてフレア様。私はマリア・クロダ。農民の娘ですが、ミリア様のご厚意で、友達にして頂きました。どうぞよろしくお願いいたします」
フレア(あれ?この子、ミリアが友達にしたの?農民なのに?ふむふむ、ミリアは意味もなく友達を作ることはしない。ということは、私も友達になっといた方が良いわね)
フレアは恋愛はポンコツだが、それ以外はとても優秀だった。宰相の娘として、あらゆる英才教育を受けていた。
ゼファール家とビスマルク家は協力関係にあった。ミリアの母親イリアが予言し、アルトの父親ウィリアムが承認し、フレアの父親コード・ビスマルクが、王命に従い。予言の裏付けと悪い予言であれば対策をし、良い予言であればより良い結果になるように準備をする。そういう関係だった。
例えば、イリアが干ばつを予言したとすると、ウィリアムが対策するようにコードに伝え、コードは干ばつの可能性と予言の信憑性を確認し、起こりうると分かれば干ばつに備えて食料を備蓄したり、水不足に備えてダムを建設したり、ため池を作るなど対策を行うのである。
そのため、イリアとコードは予言について打ち合わせをすることが多く、必然的にミリアとフレアはよく顔を合わせる間柄になっていた。そして、フレアは父の役目を引き継ぎ行く行くはミリアとフレアによって国王となるアルトを導く存在になると考えていた。
実際に、幼少期よりミリアは預言者としての才能の片鱗を見せていたし、それに対してフレアは具体的な解決案を提案することもあった。
だから、フレアにとってミリアの行動は予言と同じ意味を持っていた。そのミリアが友達にすると言ったのだから、絶対に何か必要があって友達になったと理解した。
フレア「私はフレア・ビスマルク。ミリアの友達よ。友達の友達は友達だよね?だから、私とも友達になってねマリア」
マリア「はい、喜んで」
マリア(ミリア様の友達ってことはフレア様もご立派な家系なんだろうな~。……ビスマルク?あれ?宰相閣下の家名だったような……。預言者イリア様と双璧をなす王国の重鎮『鉄筋』とあだ名されるコード宰相閣下の娘だったりするのかな?)
フレア「様なんて他人行儀はやめて欲しいわ。私たち友達になったんだから、呼び捨てで構わないわよ」
マリア「え?あの……。もしかして宰相閣下の娘様であらせられますか?」
フレア「そうよ」
フレアは無邪気に笑顔を浮かべて答えた。
マリア「無理です!そんな方を呼び捨てなんて!私どころか家族のクビが飛んじゃいますよ~」
マリア(絶対に無理!学園には警備兵も居るし、農民や平民が貴族のご子息やご令嬢に対して失礼な行動が無いか見張ってる中で不敬罪に当たるような事は出来ないよ~)
フレア「その答えを私が予想してないと思ったの?呼び捨てにしなければ、逆にそうなると思いなさい」
マリア(ひぇ~~~~。この人も無茶苦茶だ~~~~。呼び捨てにしたら不敬罪で死刑、呼び捨てにしなくても命令違反で死刑……。どうせ死ぬなら呼び捨てにして死のう……)
マリア「分かったわ、フレア」
マリア(ああ、終わった。これが、私の最後の言葉か……)
フレア「よく出来ました!」
ミリアたちの会話を聞いていた学園の警備兵が、マリアに向かって剣を抜こうと身構えた。それを見てフレアは笑顔を浮かべながら警備兵に問いかけた。
フレア「何をしようとしているの?」
警備兵「宰相閣下のご令嬢に対して農民が呼び捨てなど不敬です」
フレア「私が良いと言ったのよ?自分の言った事も守らない他の貴族と一緒にしないで」
フレアは警備兵を睨んだ。
警備兵「大変失礼しました!」
警備兵は顔を青くして慌てて直立不動の姿勢に戻った。
フレア「これでもう、大丈夫よ」
マリア(すごい!この人、本当に私と対等の友達になる気なんだ……)
ミリア(なんてこと!フレアに先を越されるなんて……。私だってマリアと呼び捨ての仲になりたいと思ってたのに……。ロイド以外が相手なら本当にたらしこむのが上手いんだから……。私も負けてられないわ)
ミリア「マリア、私の事も呼び捨てでお願いね」
マリア(ミリア様もか~。学園に入学出来て嬉しかったけど、なんでいきなりこの国のラスボス級の権力者のご令嬢と友達にならなきゃならないの~~~~~。心臓がいくつあっても足りないよ~~~~~)
マリアが泣きそうな顔をしているのを見て、ミリアは先手を打つことにした。
ミリア「そこの警備の方、これ以後マリアを逮捕したり、家族に害を及ぼそうとした者は、この私の敵とみなします。他の方にも、そう伝えなさい」
警備兵「はい!」
警備兵は、フレアに言われた時よりも顔を青くして答えた。
マリア(何てこと!私が……。ただの農民の娘の私が、ゼファール家の庇護を受けるだなんて……。これはきっと夢だ。目が覚めれば、きっと入学式の朝からやり直せるに違いない)
フレア「あ、私の敵にもなる事を忘れないでね」
警備兵「はい!」
マリア「ありがとう。ミリア、フレア」
マリア(夢なんだから、呼び捨てにしても良いはず。そうだ、気楽に行こう。二人の気が済むようにしよう。アハハ、アハハハ)
ロイド(フレアもミリア様も無茶をする。農民のマリアには酷な話だが、二人が友達にすると言ったんだ。もう拒絶は出来ない。敵対派閥からちょっかい出されなきゃ良いけど……)
ロイドは知っていた。この学園は貴族社会での前哨戦なのだと、どれだけ自分の派閥の仲間を増やし、敵対派閥から人材を引き抜くかの戦いの場でもあると……。マリアは、その戦いに武器も防具も持たずに素手で参加させられたのだ。
ミリアは無自覚だったが、フレアは自覚してマリアを仲間にした。
フレア(友達になったのは良いけど、ミリアと違って私には自由に動かせる戦力はない、ミリアはマリアを守る気があるのかしら?あるのなら、ヒイロかアランを護衛に付けるはずだけど……。あれ?なんか変だ……。アルト様が居ない!ありえない!おかしい。今日は入学式だから絶対に一緒に待ち合わせして登校してるはず。何かあったの?)
ヒイロ(さ~て、これでマリアは貴族の抗争に巻き込まれるわけだが、姉さんはマリアを守る気があるんだろうか?あるのなら僕に護衛を命令するはずだけど……)
ミリア(これでよし、後は今週末にマリアをお茶会に誘えば登場人物全員との顔合わせが終わって親密度も上がるはず)
ミリアは貴族同士の抗争の事をこの時、前世の記憶のせいで、すっかりと忘れていた。
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