第11話 心配

 ティネの部屋に戻ってきて、私と彼女の二人だけになった。しばらくの間、ティネは黙ったまま。私も、何も同じように口を閉じる。彼女が何を考えているのか、分からなくて不安だったから。


 部屋の中は、とても静かだった。


 父親から邪神の話を聞いて、ティネは何を思ったのだろう。怖くなってしまったのかもしれない。彼女は、私が邪神という存在だと知った。自分の中に封印されているものが、世界を滅ぼす危険のあるものだと知った。それは、とても怖いこと。


 それを私は打ち明けなかった。知っていたのに、ずっと黙ったままティネと一緒に居た。だけど、とうとうバレてしまった。そんなの怖いに決まっている。


 彼女は、どう思っているのだろう。私という存在など居なくなって欲しいと思っているかもしれない。それが、私は怖かった。


「ママ」

「ッ! ……なあに?」


 ティネが私の顔をじっと見つめて、話しかけてきた。どうにか返事をする。彼女に怖がられたり、嫌われたりしてないようにと願いながら。


「ママは、邪神なの?」

「そうね。多分、そう」


 ティネの問いかけに、私は素直に答えた。私は、彼女の中に封印されている邪神。おそらく、そうなんだろう。


「ママは、私の中に封印されているの?」

「そうみたいね」


 今も、ティネとの間に繋がりを感じている。この繋がりによって、彼女から離れることが出来なかった。おそらく、これが封印なんだろうと思う。私は、ティネの問いかけに頷いた。


「ママは、私の中に封印されているのはツライ?」

「え?」


 その言葉は予想していなかった。封印されているのはツライ? そんなこと、あるはずない。彼女から離れられないことをツライと思ったことは一度も無い。


「ツライなんて、そんなことは思ったことないわ」

「本当に?」


 ティネの心配そうな表情。彼女は、私のことを心配してくれている? 封印されてツライ思いをしていないかどうか、ティネは私のことを気遣ってくれているんだ。


「私は、ティネと一緒に居ることが出来て幸せよ」

「そっかぁ。よかった……!」


 ほっとしたような笑顔を浮かべるティネ。ああ、やっぱり彼女は優しい子だ。こんな子に、私は隠し事をしていたのか……。


 なんだか自分が情けなくなってきた。父親から知らされる前に、私から伝えておくべきだったな。私は後悔した。


 ティネが、私の方へ歩いてくる。そして、ぎゅっと抱きついてきた。私はティネの体を抱きしめ返してあげる。すると、彼女は嬉しそうな声を漏らした。可愛い。


 それからしばらく、私たちは抱き合ったままで居た。ティネの温もりを感じながら、これからどうするべきかを考えていた。


 私は、彼女の中に封じられた邪神だ。


 周りの人達も、ティネの中に邪神が封印されていると知れば警戒してくる。そんな状況を、なんとかしてあげたい。


 なんとかすることは出来ないだろうか。


 私は、ティネに幸せになってほしい。邪神の存在なんかに、人生を邪魔されないようにしたい。そのためには、どうするべきなのか。


 今はまだ、良いアイデアは思い浮かばなかった。

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