【未完】悪役令嬢の中に封印された邪神に憑依してしまった私は、その令嬢を全力で可愛がる
キョウキョウ
第1話 目覚め
「―――れだ。―――ってきた。わた―――から、―――け。じゃ―――め!」
「……うぅん?」
誰かの声が聞こえた。とても怒っている声だ。私に向かって言っているのかしら。分からない。とても眠くて、起きるのが面倒だった。まだ、起きたくない。起きたら仕事に行かなければならないから。目を開けたくない。
「―――いけ!」
「もう! うるさいッ!」
「……」
目を閉じたまま、聞こえてきた声に文句を言う。すると、声は静かになった。まだ目覚ましは鳴っていないので、起きる時間じゃない。ギリギリまで体を癒やすために睡眠を続ける。休息は大事だ。この時間を無駄にしたくない。さっさと二度寝。
「……ん?」
聞こえてきた声のせいで、意識がハッキリしてしまった。そのまま二度寝しようと思ったのに眠れない。仕方なく起きて、仕事に行く準備をしようと起き上がった。
「えーっと……?」
それなのに、違和感がある。部屋の中が真っ暗だった。まだ夜なのかしら。だけど頭がスッキリしている。十分に眠れたような感覚があった。いつも寝起きはダルくてしんどいのに。
それから、いつものような体の痛みが無い。年齢による肩や腰の凝り、お腹の鈍い痛みを感じなかった。
どういうことかしら。信じられないぐらい絶好調だわ。仕事の疲れとストレスなどでボロボロになっていたはずの体が、まるで生まれ変わったみたいに元気になっている。体の奥底から、どんどん力が湧いてくるような感覚もあった。どうして急に私の体は、こんな元気になったのかしら。理由は分からない。
「……うん?」
ふと、自分の手を見ると真っ白だった。細くて鋭い爪があって、毛がフサフサしている。しかも、肉球のようなものもあった。どう見ても、人間の手じゃない。
「なにこれ? 夢?」
まだ自分は夢の中なのかしら。絶好調なのも、夢の中だから。頬っぺたを引っ張ろうとしたけど、掴めなかった。人間の指とは違うから、とても不便ね。
夢の中ということは、定番の方法で目を覚まそうと考えた。それなのに、自分の頬をつねることも出来なかった。やっぱりおかしい。これは現実? 本当に私の体?
立ち上がろうとすると、自然と四足歩行になっていた。やっぱり私は、人間じゃない。別の何かに変わっていた。意識することなく、歩くことも出来た。その動きが、今の私にとってナチャラルな動作だった。
ここは、どうやら自分の部屋じゃない。家の中でもないし、建物の中でもないようだ。いつの間に私は、外に居たのか。周りは暗くて、遠くの方は見えない。だけど、壁も何もないようだ。頭上には太陽も月も見えない。何もない空間が、ずっと先まで続いている。
「うーん。どうしよう」
周りを見渡して、どうするべきか悩む。私は、何をすれば良い。自分の部屋に戻るためには、どうすればいい。このままだと、仕事に遅れてしまう。そんなことになったら大変だ。また上司に必要以上に厳しく注意されたり、嫌味を言われる。
「わっ!?」
ここから出たい。自分の部屋に戻りたい。そう願った時、私の体が光り輝き始めた。ピカッと眩しい。
どんどん光の強さが増していき、真っ暗だった辺りを照らし出す。そして、光の筋が前へ伸びていった。
「そっちに進め、ってこと?」
私の前方に、光が伸びていく。まるで道のように、まっすぐ続いていく。この先へ行けば、私は出ることが出来るのかしら。とにかく、行ってみよう。ここでジッとしていても仕方がないから。
四足歩行で進む。前足と後ろ足で地面を踏みしめて、軽快に進むことが出来た。
光を辿って、しばらく進んでいくと暗闇の空間に穴があった。その先に、私の光が続いている。この穴を通って、先に進めということかしら?
答えてくれる者は居ない。とにかく、分からなくてもこの先へ行くしかない。
私は覚悟を決めて、穴の中に飛び込んだ。
「……あれ?」
次の瞬間には、また別の場所に出ていた。今度は真っ暗ではない。薄暗いけど、普通に見える程度の明るさはある。
そこは、部屋の中だった。だけど、自分の部屋じゃない。見たことがない場所だ。しかも、日本でもないような。木製の家具、見たこと無いインテリア、白い壁。家具の配置とか、雰囲気が違う気がした。なんだか、海外にある田舎というような感じの部屋だった。
まだ、夢の続きなのかしら。
「わぁ! カワイイ!」
部屋の中に、小さなベッドがあった。その中に、赤ん坊の女の子が寝ていた。彼女の顔を覗き込む。とっても可愛い。
まだ短いけれどサラサラで美しい金髪の髪と、真っ白なお肌。天使みたいな子だと思った。私が近づいても起きる様子はない。
「ん……?」
じっと見つめていると、彼女が目を開けた。パチクリさせて、私を見る。お互いの目が合った。でも、まだ眠そうだ。大きな欠伸をしている。
「あぅ?」
まだ寝ぼけているみたいだ。手足を動かして、キョロキョロと視線を動かした後。もう一度、私の顔を見た。不思議そうな表情を浮かべて、首を傾げながら声を上げる。その仕草が、非常に可愛らしい。見ているだけで、思わずキュンとするぐらい。ずっと見てられる。
「あうー!」
彼女も嬉しかったのか、笑顔になって手を伸ばしてきた。抱っこして欲しいのかな。だけど、今の私じゃ抱っこすることは出来ない。鋭い爪と、肉球のある手足じゃ抱えてあげられない。それが、とても悔しい。
というか、今の私の姿を見られたらマズイだろう。誰の赤ん坊かも分からないのに勝手に部屋の中に入って眺めて、触ろうとしているなんて。しかも、人間の姿じゃない私が。
どうしよう。ここから離れたほうが良さそうか。私が、赤ん坊のベッドから離れた瞬間。
「うぅ! あぅぅぅぅ! ぎゃあぅぅぅぅ!」
急に、赤ん坊が泣き出してしまった。ビックリするぐらい大声で泣いている。このまま放置するのは可哀想だ。だけど、今の私は侵入者。見つかったらマズイから、逃げたほうが良いのかも。
「え? あっ! マズイっ!?」
判断に迷っている間に、部屋の扉がガチャっと開いた。どうすることも出来なかった私は、部屋の隅に急いで隠れる。誰かが、部屋の中に入ってきた。人間の女性だ。彼女が、赤ん坊の母親なのかしら。私は気配を殺して、様子を見守ることにした。
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