第5話 父親の来訪

 クリスティーネと私の生活が始まって、彼女のことをティネと呼ぶようになった。


 私とティネが親しくなるぐらいの時間が経過した頃。突然、部屋に見知らぬ男性が現れた。立派な服装を身に着けた中年の男性だ。後ろにメイド達を引き連れている。どうやら、彼が主人のようだ。そして、ティネの父親なのだろう。


 私がここに来てから初めて、彼女の親が会いに来た場面に遭遇した。母親は、まだ見ていない。もしかしたら、もう会いに来ることが出来ないのかもしれない。ただ、会いに来ないだけかもしれないけれど。


 どうやらティネは、何か深い事情を抱えているようだし。


「クリスティーネの様子は、どうなんだ?」

「はい、旦那様。お嬢様は、とても落ち着いております。今のところ、何の問題もありません」

「そうか」


 男性がメイドに尋ねて、報告を聞く。男性は、どこか安心した様子でうなずいた。そして、ベッドに居るティネに近寄って顔を覗き込んだ。何かを確認するように、じっくりと眺めている。


「……」


 見られているティネは、落ち着いた様子だった。泣いたりせずに、父親らしき男性の顔を見つめ返している。


「なるほど、大人しい子だな」


 それだけ言って、男性はティネに触れようともせず離れた。それから再び、メイドに話しかける。


「引き続き、この子の面倒を見ろ」

「はい」

「封印が解かれるようなことがあれば、この国は終わってしまう。注意して、世話を続けるんだぞ」

「わかりました」

「問題が発生したら、すぐに報告しろ。何も起きないようなら、君たちに任せる」

「お任せ下さい」


 そんな会話をして、彼は部屋から出ていった。ティネの面倒を見るのは、メイド達に全て任せて。親なのに、自分は関わらないつもりのようだ。それが、彼らにとって普通なのかしら。私の考える常識とは違いすぎている。


 それに、封印とは一体何なのか。ティネの中に、何か封印されているのか。それで国が終わってしまうなんて。そんな危ない代物が、彼女の中に封じ込められているというのかしら。


 なんとなく予想はできる。彼らの話を聞いて、分かった。その恐ろしい存在とは、私のことなのかもしれない。ティネの中から現れた、人間じゃない何か。それが、私なのね。


 自分の体の中に、もの凄いパワーを感じていた。これを解放すれば、おそらく大変なことになる。この周辺一帯を、更地に出来そうな気がする。


 だけど、私は力を使うつもりはない。ティネが居るから。彼女が怖がるようなことは、絶対にしたくないと思う。だから、この力を使わない。


 つまり、彼らが恐れているようなことは起きないだろう。この先、どうなるのかは分からないけれど。

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