最終話 月の光のみぞ知る
その夜、
(バサラにも声はかけたけど、何でか断られたんだよな)
和姫と二人きりというのは、流石に恥ずかしい。だからこそバサラを誘ったのだが、体よく断られてしまった。曰く、どこぞの馬に蹴られたくないという。
いつものように襖越しに声をかけると、中から「どうぞ」と涼やかな声が聞こえた。緊張しつつ
「いらっしゃいませ、
「お邪魔します」
「どうぞ、こちらへ。この襖を開けていると、美しい月が臨めるのです」
つと空を指差す和姫の指の先を辿り、
ないはずの透明感すら感じる白い光を放つ月に、
「本当だ。……綺麗だな」
「この月を、
「……」
「……」
互いに押し黙ったまま、ただ月を見上げる。
(触れても、良いんだろうか)
意識してしまうと、バクバクと忙しなく動く心臓の音を聞いてしまう。
すると時を同じくして、和姫も
「……!」
「……っ」
さっと目を逸らすが、つかず離れずの距離を保つ。少し手を伸ばせば互いに触れることが出来るが、二人はそれをする勇気がない。
そんなじれじれとした時間が続き、
「……か、和姫」
「は、はい」
「おれ、この国に来られてよかった。戦うのは好きになれないけど、世界を変えようなんて大それたこと、今までの世界じゃ思い付きもしなかった」
「そうおっしゃって頂けて、よかったです。……戦うことを強いたことは、本当に申し訳なく思っていましたから」
「和姫は、大切な人たちを護りたかっただけだろ? それはおれもバサラも、よくわかってる。ここに、和姫の想いがあるから」
そう言って直垂の裏側から取り出すのは、赤い組み紐を通した青色の勾玉。組み紐には
「……おれ、和姫が好きだ。だから、絶対に天下統一を成し遂げる」
「はい。……えっ」
和姫は思わず訊き返し、体の向きを変えて真っ直ぐに
「あの、たけ……」
「返事は急がないで良い、から。おれも……今は余裕がな」
「わたくしも、好きです。あなたのことを思うだけで、胸が痛くなりますから」
「――っ、本当に?」
赤面し、
硬直する
「でなければ、月を見に誘いなどしません」
「……そうなんだ。よかった、おれの片想いじゃなかったんだ」
「はい。そう、なんですよ」
くすりと笑った和姫の手に、
真っ赤になって慌てたのは和姫の方だ。
「あのっ、
「少しだけ、このままでいさせて。ちょっと、ほっとした」
「……はい」
「ありがとう」
その後五年以上の歳月をかけ、木織田と杉神の同盟が豊葦原を統一することになる。
夜空に輝く白い光だけが、静かに寄り添う二人の姿を見守っていた。
了
婆娑羅を夢見る武士の戦記・真~性格真逆の幼馴染二人組が、戦国に似た異世界で天下統一目指します!?~ 長月そら葉 @so25r-a
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