シェアした吐息はイチゴ味

こぼねサワー

【1話完結・読切】

今年も、肩を並べて花火大会に出かける。

子供の頃は自然と、手をつないで歩いてたなんて。今では信じられないよね。



去年の夏も、

――夕立やんでよかったね。うん。よかった。……なんて。他愛もない言葉かわしてたよね、わたしたち。

で、夜空を見上げて。


星だけがまたたく漆黒のスクリーンに、次々に花火が咲いては消える。

ひゅるるるる……パーンッ……って。

ハデに広がった次の瞬間には、無数の流星みたいな光の軌跡きせきになってパラパラッとこぼれ落ちて消えてっちゃう……


それが、あんまりキレイで。なんだか急に切なかったから。

なにかがウワーって胸にこみ上げてきて、思わず、わたし、

「好きだよ!」

って。イキオイに任せて言っちゃったんだ。


それなのに、

「ねえ、オレ、オナカ減っちゃった。イカ焼きでも食わね?」

って、コイツ。


完全にスルーされた、わたしのナケナシの乙女心……次の打ち上げ花火と一緒に記憶ごと全部まるっと消えちまえ……ってか、お願いだから消えて!

……心の中で全集中で祈ったのに。まさかの不発だった、次の花火。



今年も一緒にくることになるなんて、思ってもみなかった。


まさか、いつもどおり、大学の夏休みに里帰りしてきたばかりのその足で、当たり前みたいにウチを訪ねてくるなり、

「ほら、今年も。オバサンの好きな『なんとかキャラメルサンド』買ってきたぜ」

って、ヘーゼンとミヤゲ袋を渡してきて、

「花火大会、明日だろ? 夕方、迎えにくるからな」

なんて。


「あー、うん? はあ。……わかった」

わたし、たぶん、ものすごくマヌケな顔してるよね、今……

アンタが来るってわかってたら、もっとマシなカッコしてたのに。ノーメイクに見せるナチュラルメイクだって、しといたのに。

ガチのノーメイクで玄関に出ちゃったじゃんか、わたし……高校時代のジャージ着たまんま。


なんなの、コイツ? ねえ、マジで。なんなん?


そっちがその気なら、こっちだって。

今度こそバンゼンの戦闘態勢を整えてやるんだから。



で、今年も2人。肩を並べて花火大会に出かけるに至る。

並べて……っても、コイツ、去年よりまた背が伸びたから。肩と肩の位置、高さが年々ズレてく。


でも、今夜のわたしはヒトアジ違うから。そんなことでドキドキしないの、いつもみたいに。


昨日、閉店前のショッピングモールに駆け込んでゲットした金魚の柄の浴衣をバッチリ着込んできたし。

メイクだって、時間をかけたし。


逃がしたサカナの大きさを、アンタが思い知れるように、ね。



今年は、河川敷の人ごみの後ろに立って。夜空を眺める。

いつもは、できるだけ花火の近くへ……ってムチャして前の方に行きたがるのに、今日はなんだか大人しいよね。


「足もと、大丈夫?」

だなんて。


ふーん……いつもと違って浴衣姿だから。気づかってくれるんだ、イッチョマエに。

やめてよね、そーゆうの。余計にキズつくから……

逃がしたサカナの大きさを思い知らされるのは、わたしの方みたい。



わたしの気持ちなんかおかまいなしに、アンタは言う。

「髪、ずいぶん短くしたなぁ」


「うん、まあ、気分転換に」


「キレイだったのに、長い髪。もったいない」

って、まぶしそうに目を細めて……


その瞬間。アタマの中でプッツンと。はりつめた糸がブチ切れるような音が聞こえた気がして。わたし。


「短いのも似合ってるけどなー」

なんて言ってヘラヘラ笑ってるホッペタを、おもいっきり引っぱたいた。


「誰のせいで、髪を切ったと思ってんのよ!」


「は? え? はぁ? なんで!?」

ハトが豆鉄砲くらった顔……の、お手本みたいな顔して、とぼけて。


わたし、バカげたアニメプリントのTシャツを着てるアンタの胸を何度も叩いて泣きじゃくった。

「ヒトの告白ガン無視したくせに! サイテーよ、アンタなんか! バカバカバカ!」


「ちょ、ちょ、ちょっ……!? 告白って、なんのことだよ!?」


「しらばっくれるんじゃないわよ! 去年、花火大会で……」


「ああー。……オマエ、なんか言ってたけど。花火を打ち上げる音がデカすぎて、ぜんぜん聞こえなかったんよ」


「は?」


「あのあと、オマエ、急にテンション下がったから。ちょっと気になってたんだけど。そんな大事な話だったん?」


「…………」


パーンっ……って。絶妙なタイミングで花火が上がる。

たぶん、今わたしの顔、真っ赤に染まってる……花火の光の反射だって、イイワケできるだろうか。


いや、ムリよね。今の瞬間、……アンタはすべてを察した。そーゆー顔してるもの。

いつもは鈍感なくせに。ミョーなときだけカンがいい。コイツまじで。ほんとムカつく。


バツが悪そうに頭をかいて。アンタは言う。

「あのさ。やっぱ、……ちゃんと言わなきゃダメなんかな、そういうのって」


「…………」


「言わなくても分かってるもんだと思ってたから、オレ……オレも、オマエのこと……」


ひゅるるるるーパーンッ……って。今日イチのスターマイン。


「聞こえないっ!」

オオゲサに怒ってみせたら……


ヒトリジメしてたイチゴ飴の味を、そっと口移しにオスソワケしてくれた。




   ×----オワリ----×


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