苦味があるから甘さが際立つ。大人の女性に送る上質な恋物語

名家の令嬢である日下葉那が恋をしたのは許嫁の父親。彼を追って上司と部下の関係になったものの、彼女はテロに巻き込まれて怪我を負ってしまう。そこに現れたのは元許嫁で葉那が恋する霧崎真次の息子、夭輔。そして葉那は真次の代わりに夭輔と恋人契約を結ぶようになる――

と、なんとも設定から心惹かれる本作。序盤は夭輔を冷たく突き放す葉那と、狂おしい程に彼女を愛する夭輔という一方通行な関係が続きます。はじめは夭輔に対して一切のデレを見せない葉那ですが、物語が進むに連れて徐々に二人の関係性がわかってくると、印象がまた少し変わるかもしれません。
どこまでも一途に愛してくれる夭輔の姿に次第に心惹かれていく葉那。だけど、上流階級にいる者ならではの障壁や、真次への想いが二人をなかなかゴールへと導いてくれません。
睦みごとのシーンは官能的で艶めかしく、二人の仲を引き裂くような展開は読者をハラハラさせてくれます。

甘酸っぱい初恋のような物語ではなく、ほろ苦くそして甘い大人の恋物語。
代わりでしかなかった存在が、次第に無くてはならない存在になっていく過程を、美しい筆致とともに堪能していただければと思います。

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