文字が繋ぐもの

 主人公は偏屈な文字マニアである。マニアが昂じてあらゆる文字を読み解き、書き、そのたぐいまれな能力をもって読み解いた文字の持つ呪力を相殺し、(ときどき)人を救う。
 けれども、彼の文字はあまりの悪筆ゆえに意思を伝え得ない。処世術もわきまえないし、そもそも人付き合いもよくない。
 それはすなわち、彼の能力は人を救うが、彼の思いはだれも受け取ることなく虚空に解けてしまうということ。

 彼は、それでいいと思っている。自分の心の堅牢さを過信して、それ以上を望まなくなってしまっている。


 そんな彼の相棒未満の青年は、その容姿・言葉遣いすべてがなにかを訴えかけている。人はみな、そんな彼に魅了されてしまう。彼のうわべの充溢に幻惑されてしまう。

 人は彼から受け取るもののおおさに幻惑されて、彼に伝えることを忘れてしまう。

 この物語は、そんなある部分で過剰で、別の部分でからっぽな彼らが、「文字で伝え、繋がる」、切なく、幸福な話である。
 そしてもちろん、それは文字本来の能力のひとつであり、彼らは正しく文字を使ったがゆえに、正しくその恩恵を受け取った、そういう物語でもある。