Mission 2:元貴族男性の事情。








「あぁ、本当にありがとうございました」

「いえいえ。どうしても放って置けなかったですから」



 ――数十分後。

 紙袋に入った果実を抱えたダリアンとレウは、親しげにそう言葉を交わしていた。

 なぜそうなったのかは、ほんの数分前の出来事から。買い物帰りであろうダリアンと家族が坂道にやってきたとき、それを抱えていた彼が躓いて転倒したのだ。

 結果として、袋に入っていた果実は面白いように坂道を転がっていく。それらを拾う手伝いを買って出たのがレウだった、ということだった。

 言うまでもなく、ダリアンが躓くように差し向けたのは少年なのだが……。



「ダリアンさんは、この辺りではあまり見ない雰囲気の方ですね」



 そんなこんなで相手の懐に入ったレウは、しれっとした口調でそう訊ねた。

 事実、ダリアンは平民街に住むには物腰が柔らかすぎる。そのため指摘されなれているのだろう。彼は苦笑いをしながら、少年に答えた。



「あはは、お恥ずかしながら。もともとは貴族でしたので……」

「え、そうだったんですか!?」

「廃嫡されましたけど、ね」

「…………」



 語られたのは、レウも事前に仕入れていた内容と同じ。

 どうやら都合自体に違いはない様子だった。それとなると、気になるのは――。



「でも、どうして……?」



 ダリアンが、コーリウス家を廃嫡されるに至った理由だった。

 レウが首を傾げると、相手は恥ずかしそうに頬を掻く。



「それは、私が妻――レベッカとの婚姻を望んだからです。彼女は使用人だったのですが、同じ日々を過ごすうちに仲が深まりまして……」

「……なるほど」



 これもまた、稀に耳にする話だ。

 一般市民と恋仲になり、貴族の身分を捨てる者。

 もちろん数こそ少ないのだが、あり得ない話ではなかった。



「…………そんな私を庇ってくれたのは、母でした」

「ん……?」



 レウがそう考えていると、ふとダリアンはそう切り出す。

 そして懐から、紺碧色の石に美しい装飾が施されたネックレスを取り出した。それを握りしめて、彼はどこか複雑そうな表情で続ける。



「母は私の結婚に賛同してくれました。しかし、その主張は通らずに父の判断で私は……」

「……そのネックレスは?」

「これは、私と母を繋ぐ絆です。これがあるから、私はあの人を想うことができる」

「絆、ですか……」



 そこまで話すと、ダリアンはネックレスを仕舞った。

 そして、どこか憂いのある表情で語るのだ。




「本来、私は廃嫡された身です。ですから本当は、この王都を離れるべきなのでしょう。ですが――」




 貴族街の方へと、視線を投げながら。




「私の母は、身体が弱い。何かあれば、すぐに駆け付けられるように、この街を離れないようにしたいのです」――と。













「……やっぱり、納得できないな」




 レウは夕刻の街を歩きながら、そう呟いた。

 少年が立つのは、平民街と貴族街を隔てている川に架かる橋の上。ダリアンの話を聞く限り、やはり実母が彼に手を下す理由が見つからなかった。

 だとすれば、この依頼には何か裏があるのか。



「まったく、アッシュも面倒なことをするなよ」



 頭を抱えて、レウは相方への恨み言を口にした。

 そして、こう考える。



「要するに、首を突っ込め、ってことだろ?」――と。




 アッシュがこういった指示の出し方をするときには、何かしら理由がある。そしてそれは、結局のところ少年自身が考えて行動する必要があった。

 彼はよく少年に語るのだ。

 自分でも考え、心なき暗殺者にはなるな、と。




「分かったよ。だったら、ボクは――」




 大きなため息をつきながら。

 レウは相方の言葉を胸に、貴族街へと足を向けるのだった。





 

――――

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暗殺者の条件 あざね @sennami0406

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