Mission 1:次のターゲット。
「それで、アッシュ。次の依頼は?」
「あぁ、それなんだけど。少しばかり特殊な人間を殺してほしい」
「特殊な人間……って、誰さ」
「それがねぇ――」
◆
「んー……」
レウはアッシュから依頼を受諾した翌日、王都の平民街にいた。
貧困というわけでもなく、かといって裕福とも言えない人々の生活する場所だ。おそらく王都の中でも最も人口の多い区画であり、人の往来もとかく多い。
そこで少年暗殺者は、ボンヤリと立ち尽くして考えていた。
「今回も貴族の暗殺、か」
それというのも、今回の依頼について。
内容を簡単に言ってしまえば、とある貴族の長男を殺せ、というもの。次期当主を争うなど、お家騒動ではよく耳にする内容だった。次男坊が妾や使用人の子供であり、長男が死なない限り家督は巡ってこない云々、という。
今回もその類のはずだった。
しかしレウがアッシュから聞いたの話は、少し違うようで……。
「ただ、平民と結婚した貴族、ってのがな……」
それが、少年の頭の中にひどく引っ掛かりを生んでいるようだった。
アッシュ曰く、今回の依頼はコーリウス侯爵家の正妻から、とのこと。つまるところ殺害対象の実母、という話だった。具体的な事情は知らないが、考えるのも面倒な程に入り組んだ事情があるのは明白である。
レウ自身、乗り気ではない依頼は山ほどこなしてきた。
しかしながら今回は、別格で気乗りしない。
「実の母親が息子を殺したい理由……? なんだよ、それ」
湧き上がってくる感情は怒りと呼ぶのが正しい。
たしかに貴族という生き物は、面子や体裁という下らないものを第一としていた。それでも、だからといって親が子を殺すとは、いったい何事か。
アッシュは理由を知っている様子だったが、詳しくは語らなかった。
幼馴染みである青年は、昔からどこかレウを試している節がある。今回もその類なのだろうけれど、それにしても趣味が悪いと少年は思った。
「まったく、とりあえずターゲットを探さないといけないな」
だが、これもれっきとした仕事だ。
自分たちには、どうしても金を稼がなければならない理由がある。そのためであれば、感情というものは二の次にしなければならない。レウはそこまで考えてから、ふと人の波に目を向けた。すると、
「あっはははは! 待てよ、リンク!」
「こっちだよ、お父さん!!」
頭の中に特徴を叩きこんでいたからだろう。
レウの目に飛び込んできたのは、育ちの良さそうな一人の男性だった。金色の髪に青の瞳をした彼は、我が子らしき男の子を追いかけている。
その少し後ろに、大きなお腹をした女性が笑顔で続いていた。
一見して幸せそうな家族。
そして、その家族こそが――。
「あーあ、見つけちゃったよ……」
――間違いない。
彼らこそが、レウが殺すべき対象だった。
コーリウス侯爵家を廃嫡され、平民と結婚した男性。名前はダリアン・ルイフィル。妻の名はレベッカで、息子の名前がリンク。
彼らの会話を聞いていて、次々に情報が適合していった。
「…………」
和気藹々と語り合う家族を遠巻きに眺め、しばし考えるレウ。
そして、一つ大きく息をつくのだった。
「まぁ、殺すのはもう少し後でもいいだろ……たぶん」
腰元から抜き放とうとしたナイフを仕舞いながら。
少年は立ち上がり、大きく伸びをするのだった……。
――――
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