(最終章)
ピエロが死んだ。
世田谷の広い公園の雑木林の中ほどの、公衆便所の用具室に押し込められ・・・。
こちらも、覚醒剤の過剰摂取だった。
「心当たりがあります」
と、孤島の捜査で知り合った若い刑事に申し出た。
所轄署の死体置き場のベッドに横たわる男の顔の白い布を取ると、果たしてロン毛の夢追い人だった。
ピエロの正体は中学校の英語の教師で、イギリス留学で本場の英語を勉強するとかの理由で一年間の休職中だった。
10億円をゲットする夢を追いかけた挙句に、生真面目な学校教師がたどりついたのがこのモルグとは!
彼に本場仕込みの英語を教えてもらうのをこころ待ちにしていた生徒たちは、失望したことだろう。
調べると、山城社長は以前に覚醒剤所持使用の疑いで逮捕されていた。
この時は、起訴猶予で無罪放免されていた。
堀内、加奈子、夢追い人のからだから検出された覚醒剤のDNAはすべて一致した。
山城社長は指名手配されたが、すでに関空から海外に逃亡していた。
社長秘書の綾子は、事件のほとぼりが冷めたころに、会社をひっそりと退職した。
ある日、バリ島だかどこか南の島のビーチに立つ綾子の写真のポストカードが届いた。
幸せなのか、綾子は満面の笑みをたたえていた。
綾子の肩に手を回した長身の男の肩と胸だけが写っていた。
どこか、見覚えがあるような気がした。
・・・おそらく気のせいだろう。
「1億円取り損ねましたね」
横からポストカードを盗み見した可不可が言った。
「ああ、完全犯罪を見届けることができなかったからね。でも想像はできるよ。孤島の別荘で首を吊って堀内を殺したのも、女優を溺死させたのも、夢追い人と山城社長の共同作業だろう。・・・完全犯罪を企画実行した夢追い人は、すべてを知っているとして、山城社長に殺された」
「ひとの犯罪を請け負うと、だいたい口封じとかでそんな末路になります」
「でも、綾子さんが約束した経費分は送金して来たよ」
「どう使います。スーツでも新調しますか?」
「いや、まず、この家の固定資産税やら国民年金の未納分を払うことにする」
「やれやれ、夢のない話ですね」
可不可は呆れ顔で言った。
「人生には夢も希望もないよ、まったく。あるのは、この国で息をしているだけで税金が搾取されるという現実だけだ」
ついつい愚痴が出るのは悪い習性だ。
まだ、22歳なのに・・・。
(了)
俺を殺せば10億円!~引きこもり探偵の冒険6~ 藤英二 @fujieiji_2020
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