(その24)

人気若手女優の三条加奈子が、下北沢の自宅マンションのバスルームで溺死しているのが見つかって大騒ぎになった。

加奈子はIT企業社長との恋愛スキャンダルの渦中のひととなり、すべての仕事をキャンセルして家に引きこもっていた。

連絡がつかなくなったマネージャーが心配して、彼女の高級マンションへやって来たが応答がないのを怪しみ、管理人に鍵を開けてもらって室内に入って遺体を発見した。

・・・しかし、それは奇妙なものだった。

さほど広くないバスルームの床から天井まで水が詰まっていて、裸の加奈子はその中で溺れ死んだようだ。

警察の調べでは、床の排水溝にタオルで詰まっていて、カランから流れ出た水がどんどん溜まってバスルームの天井近くまで届いていたという。

水圧で扉が内側から締まって容易には開かないのを、マネージャーと管理人がガラス扉を叩き割って水を部屋へ逃がし、加奈子を助け出したが、すでに溺死していた。

加奈子は覚醒剤注射で気を失っていて逃げ出すことができなかったようだ。

マネージャーは、加奈子は覚醒剤などとは無縁の生活で、何者かが注射をしたのだと訴えた。

その「何者か」とは?


加奈子のマンションの防犯カメラと玄関のオートロックの画像には、ピザの箱を持ったピエロが映っていた。

『ピザ屋がピエロの扮装でデリバリーに来たとでも?』

だが、部屋にはピザの箱は残っていなかった。

ピザの箱のデザインから近くのピザ屋を当たったが、ピエロの扮装でデリバリーはしてないし、そんな恰好をした男にピザを売ったこともないという答えだった。

加奈子の携帯にはピザ屋に注文した履歴はなかったが、山城社長からの電話があって3分ほど話したことになっていた。

では、山城社長は生きていて、ピエロの扮装をしてピザをお土産にして訪問し、覚醒剤を注射した加奈子をバスルームで溺死させたのだろうか?

そんな憶測だか妄想だかを膨らませていると、

「山城社長が生きているのは間違いなさそうですね」

可不可がたずねた。

「そうだね。そもそも、山城社長が社長室で致死量の血痕を残して行方不明になった事件がはじまりだった。刺した男は死んでいたが、あのとき残された血だまりは社長のものだった。自己献血で血液を溜め込んでおいた血液を床に撒いて行方をくらませた。・・・孤島でも同じ。用意しておいたじぶんの血を床に流して逃げた」

「おそらくレボルバーは空砲でしょう」

「えっ?」

「最後の最後に堀内が撃つように弾倉に細工をして、空砲を撃たせた。おそらく、堀内も覚醒剤を打たれて意識がもうろうとしていた。だいいち、あの映像を見るとLIVEとうたってはいますが、画面をつないでいるのは見え見えです。・・・おそらくビデオ映像でしょう」

可不可は、こともなげに言った。

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