(その23)

青い海原をランチが波を蹴立てて突き進む。

高い空にたなびくレースのカーテンのような薄雲から、時折薄日が差す。

・・・綾子といっしょにノートPCを所轄署に持参してあらましを話すと、水上署の快速ランチを孤島に派遣して調べることになった。

もっとも、山城社長と堀内取締役のロシアンルーレット対決は、すでにYouTubeでもLIVE中継されたので、多くの人が見て話題になった。

もちろん警視庁のサイバーセキュリティ―隊も注目しているはずだ。


・・・航行の間、可不可を抱きしめていなければならなかった。

もっとも、水が苦手なアンドロイド犬は、万一海に落ちたときのことを警戒して船べりには近づこうとしなかったが・・・。

大型クルーザーではないので、孤島の船着き場にランチを直接着けることができた。

ここしばらくは雨が降っていなかったので、白い砂浜は干上がって砂がさらさらだった。

熱くなった砂に靴をめり込ませながら、一行は砂浜を横切り、右手のなだらかな崖を登った。

真っ先に、白鳥が翼を広げたような白亜の別荘の二階に登って応接間を調べた。

三脚に固定されたカメラが室内を向いていた。

固定された角度からして、このカメラでルーレット対決を撮影して配信したことが分かった。

海に向いた正面のふたり掛けのソファーの左右に、ひとり掛けのソファーがそれぞれ配置してあり、左のソファーの手前に山城社長が倒れたはずだが、その姿はなかった。

その辺りにカーペットにこびりついた血の塊があった。

レボルバーは、四角いワゴンテーブルのガラスの上に置いたままだった。

画面で見たように、高い天井と白いソファーと白で統一された家具は明るい陽光を受けてさらにまばゆく輝いていたが、どこか空疎な感じがした。

それはモノだけがあって、ヒトがいないからだろう。


二階の会議室にも一階のキッチンやバスルームにも、ふたりの姿はなかった。

若い刑事は肩をすくめて、綾子を半ばからかうような仕草をした。

突如、可不可が玄関を飛び出して走り出した。

驚いたみんながその後を追った。

可不可はログハウスの別荘が点在する杉木立の中へ走り込んだ。

木立の間の狭い空地で、木の股に縛りつけた縄でもって、男が首を吊っていた。

白い長そでのシャツから、それは堀内と思われた。

足元に小さなスツールが転がっていた。

別荘から持ち出したスツールに立って木の股に縄を縛りつけ、スツールを足で蹴とばして首を吊ったにちがいない。

警察官がふたりで、堀内を抱きかかえて降ろして地面に横たえたが、あれから一昼夜は経っているので息があるはずもなかった。


木立の上空をカラスが滑空していた。

首をめぐらせて空を見て、その高さを思い知ったが、地上の生命体のもろさを思わずにはいられなかった。

・・・それにしても大城社長はどこへ消えたのだろう?

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