(その22)
・・・銃は暴発しなかった。
肩の力が抜けた山城社長は溜息をつき、何かを言いたそうにしたが、結局何も言わずに、最後の一発が残ったレボルバーをガラス板の上に置いた。
堀内のからだは大きく揺れた。
あるいは、大きな震えだったのかもしれない。
「許してくれないか・・・」
堀内は、ひりつく喉から絞り出すようにして声を出した。
「何を?」
「俺のやったすべてを・・・」
その声はほとんどかすれて、よく聞こえない。
「何をいまさら。・・・さあ、こいつで償ってもらおうか」
土下座でもしようとしたのか、ソファーからすべり降りて両膝を突いた堀内に向かい、銃身を握った山城社長が銃尻を突きつけた。
半ば泣きべそをかく堀内の口元から涎が垂れた。
・・・とても恋人には見せられない醜態だ。
長いことためらっていた堀内は、ようやく銃床を手に握り、だらだらと銃身を頭の横へ持ち上げた。
だが、ここで堀内は何事かひらめいたのか、首をもたげて、不意にレボルバーを山城社長に突きつけた。
山城社長があわてて後ずさりするのも委細かまわず、堀内は引金を引いた。
・・・破裂音とともに、山城社長は仰向けに倒れた。
綾子は悲鳴を上げ、あたかもじぶんに弾が当たったかのように、ソファーに崩れ落ちた。
画面の中の堀内は、呆然と立ち尽くし、手の中のレボルバーと倒れた山城社長を交互に見ていたが、レボルバーをガラスの上にそっと置くと画面の右端からワイプアウトした。
「これを持って警察に行きます」
正気を取りもどした綾子は、蓋を閉じたノートPCを抱えるとすっくと立ちあがった。
「綾子さん、少し考えましょう」
あわてて抱きとめると、綾子はソファーに座って頭を抱えた。
「夢追い人はどうしました。これって彼の完全犯罪のプランでしょ。ロシアンルーレットに細工をして、堀内が社長を殺すようにプランを考えて実行した。つまり、他殺を装った自殺です。・・・社長の望む通りに。しかも、恨み骨髄の堀内を殺人者に仕立て上げた。完璧な完全犯罪です」
それを聞いた綾子は、少し冷静さを取りもどした。
「・・・たしかに、山城の望んだ結末です。でも、分かっていてそれを防げなかった」
両手で顔をおおった綾子は、さめざめと泣いた。
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