第8話 花

 ある日の夕暮れ前、食堂で働いていた。

 今は常連の冒険者が一組、なごやかに酒を飲んでいるだけだ。

 触りでもしたのか1人がクリスに引っ叩かれていた。

 いつもの光景が微笑ましい。


「なんだろう?」


 通りがざわざわ騒がしくなっているのにクリスが気付いた。


「喧嘩って感じではなさそうね?」


「そうね。何かイベントあったかな?」


「う~ん。無いはずだけど・・・」


 宿うちがあるのは冒険者ギルドに近い商店街でそもそも賑やかな地域だ。

 だからといってこんなにざわつているのは珍しい。


 ほどなくして飲んでいる冒険者の仲間が食堂に駆け込んできた。


「花が歩いてくるぜ!」


 入口をくぐるなり興奮した様子で大声を上げる。

 面白いものでも見たといった表情で食堂にいた仲間に声をかけている。


 花?歩いてくる?モンスター?モンスターの騒ぎじゃなさそうだしなぁ?

 花が絡んでいるなら私も気になる。


「はぁ?いかれたか?」


「いやマジで!ちょっとこいよ?」


「めんどいな。どれ。あっちょっと見てきます。テーブル残しといてもらえますか?」


「あっはい」


 私に一声掛けて表へ出て行く。

 常連さんだから食い逃げではない安心して見送った。


「すげえ・・・まじかよ!!」


 外にでた冒険者の笑い声が聞こえる。

 クリスを見ると視線が入口を気にしてソワソワしている。


「見に行かない?」


 二人で食堂を離れるのはいけないとは思いつつもどうしても気になった。

 だから共犯をつくろうとクリスを誘って外に出た。


「「なんだろね?」」


 と二人でワクワクした。

 外に出ると、多くの人が同じ方向を見て立ち止まっている。

 指を差している人もいて、指先の方向を目が追いかける。


「「・・・」」


 二人で唖然となった。

 常連さんの言う通り花、花の山が見えた。

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