第9話 ダニエルさん

 『花咲く都』とはいえこれほどの花の山を見ることはそうそうない。

 通りは広く通行に支障はなさそうだが、人の2倍の高さで同じくらいの幅もある。


 下に足っぽいものが見えるから抱えて運んでいるのだろう。

 足取りにブレはないけど、慎重に進んでいるからか進みはゆっくりだ。

 人にぶつからない器用さに妙に感心する。


 山は外側から中心に向けグラデーションになっている。

 中央の白がメインなのだろう。


「花束?」


「みたいだね」


 なんとなく花束の山はここ・・?を目指しているらしい。

 こんな注文は聞いてないけれど?

 花の注文は母の領域で祖母とて口出しはしない。

 軽いパニックだ。


 固まっている内にもどんどん山が近づいてくる。

 やっぱりうちを目指してる!?

 心臓がドキドキと弾んでいる。


 近づいてくるにつれ、細部に渡って飽きがこないように工夫がされているのがわかる。

 これだけの大きさをまとめる難しさ。

 すごい力作だ。

 どこのアトリエでアレンジしたのだろう?


 花の一つ一つが見えるようになってくる。

 中心にあるのはカティア・・・・の花・・・。


 山が目の前で止まる。

 お客さん?はっとして、


「いらっしゃ・・・いませ?」 


 自信なく尋ねてみる。


「ただいま」


 どうやって持っているのかひょいと花束をずらし見えた顔はダニエルさんだった。

 え?え?動揺を抑え改めて出迎える。


「ダニエルさんおかえりなさい。お花どうしたの?」


 ダニエルさんの顔は赤い。

 少しの沈黙、そしてすっごい笑顔になる。


「結婚して下さい!」


 ぐいっと花を押し出してくる。

 流石に圧がすごい。


 けっこん?プロポーズ?

 はっと隣にいるクリスを見ると、ブンブンと音を立てて首を横に振っている。


「・・・・」


 ダニエルさんの顔を見る。

 笑顔だが真剣な眼差し。

 嘘じゃない?


「・・・・」


 ダニエルさんの顔を見る。

 私から目線を外さないが、動揺が顔に現れている。

 本当なんだ・・・。


「・・・・」


 山の中央に鎮座するカティアの花を見る。

 ずっと求めてきた花。


 (ウィル)


 涙がひとしずく頬を伝う。

 無意識に腕輪を撫でていた。

 真っ直ぐ見つめるのはダニエルさんだ。


 (ウィル私はいくね)


「・・・・はい」


 声が震える。

 涙が止まらない。


「ほっ、ほんとに?」


 少しムッとはした。

 プロポーズしておいて何をへたれているのか。


 ずっと好意を感じていた。

 笑顔が嬉しかった。

 そして何より毎日・・帰ってくるのだ。 


 この人を愛そう。


「はい。よろしくお願いします」


 心から、ほんとうに心から笑うことができた。

 ゆっくりとダニエルさんに近づく。


 頬に手を伸ばす。

 彼の顔をさすり、ゆっくりと抱き着いた。

 耳元で本当の願いをささやく。


 「ずっと・・、ずっとそばにいてください」


 わぁっと歓声が上がりあちこちから拍手の音が聞こえる。


 ☆ ☆ ☆


 花束は宿にも食堂にも入るはずがなく、食堂の入口を半分塞いで外に鎮座している。

 力自慢が持ち上げようとトライしていたが、完全に持ち上げた人はいなかった。

 街のトップグループに所属している人も少し浮かせてから「やべぇ」と言って下ろしていた。


 「フロートの魔石は?」


 「愛の重さだよ?使うわけないじゃん」


 「アホか!受け取れねぇだろが!」


 「あっ」


 という会話があったが『大丈夫』と自分に言い聞かせた。


 私とダニエルさんは食堂でたくさんの祝福と質問に応えた。

 少し気恥ずかしかったが嬉しさの方が強かった。


 私はこの人と幸せになる。

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